(第151回)トンマしちゃったっと…
僕は突然、フッと考え込んでしまう癖がある。
例えば先日、劇場で映画を見終わったあとトイレに行って用を足した。そして洗面台で手を洗おうと蛇口をひねった瞬間に、考え込みが始まった。映画の内容に関して何か考え込んでしまったのである。そのまましばらくしてから、反射的に蛇口をしめて、自動乾燥機に手をつっこもうとした。そこでハッと気づく。蛇口を開けて水を流しただけで、肝心の手を洗っていない…。
こりゃぁ、とんだトンマくんだ…と自分でニヤニヤしながらもう一度洗面台にもどり蛇口をひねる…
「このネタはフットハットで使えるな…。どういう風に書こう…」
と、また考え込みが始まる。そしてまた手を洗い忘れて蛇口をしめ、立ち去る…。はたから見れば、何度も洗面台を行ったり来たりし、ニヤニヤしながら蛇口をひねっては水だけ流すという、得体の知れない男である。
自炊の際にもたびたび考え込みタイムは生じる。
先日、卵焼きを作ろうと思って、卵を3つ用意した。そして卵を入れるためのボールを、三角コーナーのわきに置いた。三角コーナーというのは調理の際に出るゴミを捨てておくところである。卵をボールにトンと割り入れ、すぐ真横の三角コーナーに殻を捨て、それをテンポよく3回繰り返す…というイメージだったが、またこの時、何か考え込みが始まった。
ハッと気づくと、僕は三角コーナーに卵を割り入れ、ボールに殻を放り入れるという作業を2回繰り返していた。卵は、昨日捨てた玉ねぎの皮やコーヒー豆のカスなどといっしょにまみれて、悲惨な姿に…。結局、その日のおかずは目玉焼き一個となった。
これはあってはいけない事だが、車の運転中にも考え込みをしてしまう時がある。ある夜、知人を助手席に乗せて運転していた。会話が途切れてしばらくした瞬間、僕の考え込みは始まった。そして青信号でピタッと停車し、その信号が赤になった瞬間、アクセルを踏んで発信した。
「おいおい!」
と知人はびっくり。
「赤で発車はアカンやろ」
「え、赤やった?」
「その前は青信号で止まったやん…」
「ゴメン…」
幸い、夜中で他に車がなかったため、何事もなく済んだ。
このうっかり運転のからくりはこうである。僕は考え込みの最中、かなり前方遠くの方を見ていた。本来自分が見るべき信号の、三つも四つも先の信号を見ていたのである。それが赤になったから止まり、青になったから発進したのだ。まぁこれは交通ルールに反しているから絶対やってはいけないのだが、これから僕は二つの事を知った。
ひとつ、逆に僕が歩行者だったとして、車が必ず赤信号で止まってくれると信用するのはよくない…。
もうひとつ、物事の先を見過ぎて、現行としては奇行に見えたとしても、意外とその人はその人なりに真面目なのである。
よく、「30年後に生まれていたら、キミの時代だったかも知れないね…」といわれたりする『早過ぎた天才』系の人はそれにあたる。
2008年2月16日号掲載

トマス・チャタトン 1752~1770
イギリスの詩人、17歳で服毒自殺。早過ぎた天才といわれる。
| 追記・・・相手の目をしっかり見ながら、全くその人の話を聞いていないとか…テレビを熱心に見ながら頭の中では全く別のことを考えている…ということが、僕はよくあります。 |
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