(第183回)惑うな! | フットハットがゆく!

(第183回)惑うな!

 
 僕はビデオの撮影、編集を仕事にしています。趣味はスポーツ観戦です。このスポーツの知識というのは、僕の仕事に大いに役立ちます。

 例えば野球には「緩急」という言葉があり、ピッチャーの投球に対して使われます。速球ばかりを投げると、バッターも目が慣れてきますから、時おり遅い球を混ぜるわけです。遅い球にタイミングがずれて空振りしてくれたらもうけもん。仮に見送られても、バッターは一度遅い球を見てしまっているわけですから、次に速い球が来るとより速く感じてしまい、見事に空振りするのです。
 緩急自在の投球…この考え方はビデオに応用出来ます。撮影する時に引いた絵(全体像)ばかりを撮ると、たしかに客観的にはよく見えますが、だんだんと飽きてきます。だから時おり寄りの絵(アップ)を混ぜ、メリハリをつけるわけです。逆にアップばかりだとしんどくなって来るので、投球と同じくバランスや組み立てが大事です。

 「緩急」に似ていますが、「チェンジ・オブ・ペース」という技術もあります。サッカーやラグビーでよく使われます。ボールをドリブルしながら一直線に同じ速度で走ると、追いかけるバックスとしては予測しやすくボールも奪いやすいのです。しかし、ドリブラーがふとスピードを落とすと、バックスもそれに合わせてスピードを落とします。その瞬間を見計らっていきなりトップギアで走り始めると、タイミングをずらされたバックスは一気に抜き去られてしまう…というわけです。マラドーナの伝説の五人抜きドリブルにも、この技術が使われていますね。
 ビデオを編集する際にBGMを挿入しますが、「チェンジ・オブ・ペース」の考えが大いに役立ちます。例えば、似た曲調のBGMが続くと視聴者も飽きてきます。あえて、無音の状態を作ったり曲調を変える事で、よりBGMの効果が増すことになります。

 あらゆるスポーツの定番技術のひとつに「フェイント」があります。相手を惑わすための見せかけ動作のことです。例えば僕はストリートダンスのPVをよく作りますが、ノリのいいBGMのテンポに合わせてカットを変えると、リズムと映像がシンクロして非常に気持ちいい具合になります。しかし、それがずっと続くとそれが当たり前になってしまい、気持ちよさも薄れます。そこでフェイントをかけて、いったんカット割りとBGMのテンポをずらすのです。この技術は映画やミュージックビデオなどでもよく使われます。いったんフェイントが入った方が、タイミングが合致した時の気持ちよさが増すわけです。

 最近は、ホームビデオで撮影したものをパソコンで簡単に編集出来るので、ビデオマンのみなさん惑うなかれ、ぜひスポーツ技術の応用を試してみて下さい! ビデオ以外にもいろいろ応用出来ます。料理、カラオケ、デートなど実生活にも使えます。でもデートの最中に「チェンジ・オブ・ペース!」とかいっていきなり走り出したらダメですよ!

2009年7月1日号掲載 



フットハットがゆく!-マラドーナ画像
マラドーナ 1960~
アルゼンチンの元サッカー選手。現アルゼンチン代表監督。


追記・・・撮影や編集の細かい技術っていうのはなかなか理解してもらえないです。見てると簡単そうだけど、やって見ると難しく奥が深い…そのあたりもスポーツに似ていますね。


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ディエゴ・マラドーナ、

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