(第1回)くたばってしめぇ! | フットハットがゆく!

(第1回)くたばってしめぇ!

 
 足型マーク入りの山高帽をかぶったその男は、「フットハット」と呼ばれている。といっても、そう呼んでいるのは実は僕だけである、多分。

 複雑に絡み合う脳細胞の隙間にいるのがフットハットであり、簡単にいうと、「ふっ」と思うこと、「はっ」と気付くことなど、「想像力」や「感性」といったところを抽象化した表現が、「フットハット」なのである。
「ダジャレやん」
 と、いわれるかも知れないが、僕はこの表現がなかなか気に入っている。二葉亭四迷がいつも親父から、
「くたばってしめぇ!」
 と怒鳴られていたことから、自分のペンネームを二葉亭四迷にしたのと、似たようなもんである。これから、フットハットとともに色々な事を書いていきたいと思うので、宜しくおつき合い下さい。


 さて、先日「ふっ」と思ったのだが、なぜ、人はいろいろなことを忘れてしまうのだろう。だいたい僕は、
「忘れてしまうようなことは、忘れてしまっていいことだ」
 と、いいかげんな考えの持ち主なのであるが、昨日約束したデートの待ち合わせ時間を、どうしても思い出せなかったりする反面、小学生の頃好きだった子の、クロールの息つぎの表情を今でも覚えていたりする。二十四、五年も前のクロールの息つぎが、そんなに重要なのかと自問すると、さぁ、どうなんでしょう、という答えしか返って来ないが、とにかく、思い出せないものはしようがないので、彼女に電話する。
「明日の待ち合わせ何時やったっけ?」
「5時に大丸の前ゆうたやん、忘れたん?」
 と、彼女。デートの時間を忘れるとは、自分の事を軽んじられたと彼女は思うだろう。決してそういうわけではないのだが、なぜか浮雲が掻き消えるように、忘れてしまったのだ。

 翌日僕は高島屋の前で、5時から延々彼女を待った。2時間も彼女を待ち続ける純粋な僕であったが、待ち合わせ場所を間違える単純なアホでもあった。「はっ」と気付いた時にはもう遅い。携帯電話を家に忘れ、彼女の番号も覚えていない自分が、どれだけもどかしかったことだろう。

 そんなこんなで結局彼女に振られ、心に傷が残る。が、早く忘れたい彼女の想い出が、また、なかなか忘れられなかったりするのだ。人生って難しい・・・

2001年11月16日号掲載 


二葉亭四迷
二葉亭四迷
ふたばていしめい。日本の小説家、翻訳家。
筆名の由来は文学に理解のなかった父に「くたばってしめえ」といわれたことから。


追記・・・記念すべき第一回。紙面に連載当初は人物の挿絵と存命年のみで、名前はあえて伏せていました。どういう人物のダジャレなのかは、読者に当ててもらいましょう…という意図でした。ブログ版では初回から人物名を出しております。


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