(第149回)愚店、ベール剥ぐ
年明け早々にニュースになった、『自費出版大手のS社、ついに倒産!』について…。
僕のようにアマチュアで文章を書いたりしている人間には、ある意味有名なS社であった。コンテストを開催し、それに応募落選した作家に対して、
「もう少し頑張ればプロになれる。まずは自費出版という形で本を売らないか?」
という感じで勧誘をするのである。出版予算はおよそ150万円。作家側はたとえ全額自己出資してでも、自分の作品が形になり本屋に並ぶのならば…と、本を作ってはみたものの、自費出版本が本屋に並ぶはずもなく、自分の手元に何百冊と本が残り呆然…という話をよく聞いた。
もちろん、自費出版は昔から広く普及しており、良心的な出版社も数多くあるのだが、やはり作家の気持ちを弄ぶような出版方法は良くない。愚店は結局ベールが剥がれ、倒産したのである。
さて、かくいう僕も5~6年前に一冊の本を出版したことがある。
人生の節目ちょうど30歳になる頃に、とある目的で自叙エッセイ集を書いた。普通に書いても面白くないので、今まで自分が出会った生き物との思い出を絡めた「たいちろう動物記」という作品である。パソコンで作り、手作りで製本し二冊だけ作った。世界にたった二冊の本のうち、一冊は両親にプレゼントした。自分を育ててくれた両親に、息子がいかに成長してきたかということを、形にしてプレゼントしたかった。
そして、もう一冊は、その時好きで好きでたまらなかった女性にプレゼントした。片想いであったが、結婚したいと思うくらい好きだったので、僕の生き方や考え方を、その人に分かってもらいたかったのである…。
両親に贈った手作り本は、親戚にも回覧され、身内のこともありウケは上々、出版社に送れという話がもちあがり、十数社に送りつけた結果、一社が「共同出版で」と、出版を許可してくれた。自費出版が一歩前進したような形で、出版費用の一部を作家が負担(約50万円ほどだったと思う)するが、ISBNコード(国際標準図書番号)もつき、本屋や図書館にも置かれる…というものであった。
一方、好きだった女性に贈った方は、なかなか感想を聞かせてもらえなかったが無理矢理
「どうだった?」
と聞くと、
「虫の写真が恐くて、読めない」
とのことであった。そう、僕のエッセイ集にはクモやアリなど、彼女がこの世で最も嫌いな虫の写真が何点もあったのである。この世で最も愛する女性に読んでもらえなかったショックで、
「しょせん俺の活字なんか、虫一匹に劣るのよ…出版などくそ食らえ!」
という気分になった。
しかし親戚や祖母の援助もあり、結局出版した。もちろん、リアルな虫の写真は省き、かわいいイラストに描き換えた。幸い良心的な出版社だったため、ちゃんと約束通り本屋にも並び、今でもネットで買える。印税が入るほどは売れなかったけど、記念になったしよかったなと思う。
ちなみに、死ぬほど好きだったあの子は、他の男と結婚してしまった。
2008年1月16日号掲載

グーテンベルク
1400頃のドイツの技術者。活字印刷術の発明者とされる。
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