「駄目になっていると思うの」


彼女は唐突にいった。

何のことだか当然僕にはわからない。


「駄目って何が?」


何を当たり前のことを聞くんだろう、そう思っているのが一目瞭然の表情で彼女は口を開いた。


いつもはしっかりとルージュのぬられている唇が罅割れているのが何故か嫌に目につく。


「私」

「私が駄目」

「駄目なのがわかるの」

「もう終わりだって」

「いなくなってしまう」

「消えてしまうの」

「でも私が消えてしまってもきっと誰も気がつかないわね」

「貴方もきっと気づかない」


告げられた言葉を租借する間もなく次から次に彼女の言葉は降り注ぎ、その海におぼれそうになる。

僕はただ相槌を打つことしかできない。


そしてただ一つ質問を。


「どうしてそう思うの?」


彼女はまた何を当たり前のことを聞くんだろうという表情でこれまでの中で一番はっきりとした発音で口を開いた。



「それが決まりだから」