イリノイ州の片田舎にたっている一軒の館には人ならざる一族が住んでいる。
物語は一族の中ただ一人限りある生を生きるティモシーが万聖節前夜、「ひいが千回つくおばあちゃん」からその屋敷の歴史を聞く事からはじまる…。
古代エジプトから3千年かけてやってきた猫アヌバ。
屋根裏で眠り続け、心を世界中にそしてあらゆるものに飛ばしている魔女セシー。
死んで生まれていったアンジェリーナ・マーガレット。
そして屋敷の玄関にシェイクスピアとポオの本と一緒におきざりにされた人間の赤ん坊。
人ならざる彼ら、そして人でしかない彼らがどうなるか、それは読んでのお楽しみ。
魔力を持つ一族の中、一人ただの人間でしかないティモシーの彼らに対する憧憬が切ないです。
異端の中のさらに異端。
それでも彼は彼らを愛し、彼らに愛される。
そして只人であるがゆえに彼らの守護者となるのです。
おりに触れてブラッドベリが発表していた所謂「一族もの」を下敷きとした短編集。
「一族もの」の集大成といったらそれだけで飛びつく方も多いのではないでしょうか。
ブラッドベリだっていうだけで充分っていう方もいるに違いありません。
かくいう夕凪はその一人。
どうしてこんな世界を描けるのかブラッドベリの物語を読むといつも不思議でなりません。
そしてそんな魅惑的な世界をブラッドベリがおしげもなく私たちにわけてくれることをとても幸せに思うのです。
そしてブラッドベリの小説は甘ったるくて読めないという人もいるけど彼の物語はただ甘いだけではない。
暗く影にしか存在し得ないもの…そんな存在をえがいてみせる。
異形、刹那、少年…そんなモチーフが好きな人はぜひご一読を。
ある晩、夕餉の席で一族に囲まれていたティモシーがナプキンで涙をぬぐいながら、いった。
「アンジェリーナは天使みたいっていう意味だよね?それにマーガレットは花だよね?」
「そうとも」とだれかがいった。
「それなら」とティモシーはつぶやいた。「花と天使だ。灰は灰にじゃない。塵は塵にじゃない。天使と花に還るんだ」
「彼女のために乾杯しよう」と全員が声をそろえた。
そして彼らは乾杯した。
「生きるなら急げ」