すごく仲の良かった友達と、些細なことがきっかけで仲たがいしてしまうって、意外によくあることだと思う。



 Sちゃんは私の一番仲の良い友達だった。感性が合い、二人でいると何時間でも楽しく喋っていられた。たまに考え方の違うところがあって議論になることはあったが、口角泡を飛ばして議論しても、親密さには何の影響も無かった・・・のだが。



 最近ちょっと様子が変わってきた。Sちゃんとは前の職場で知り合って、付き合いは15年ほどになる。彼女は2児の母で、彼女の息子たちとも親しく、旦那さんとうちの旦那も交流があり、それこそ家族ぐるみの付き合いをしてきた。一緒に旅行に行ったこともある。本当に色んな方面での価値観が合い、これからもずっとこの関係が続くと思っていた。



 しかし、最近Sちゃんの様子が以前と変わってしまった。彼女はちょっと前、ママ友との人間関係で悩んでいて、相談に乗ったことがある。Sちゃんの中学生の長男が地元の少年サッカーチームに入っているのだが、その保護者グループとの関係についてだった。その中の「主流」グループから素っ気なく対応されて、彼女は悩んでいた。



 曰く、挨拶しても無視か、生返事しか返してくれない、私以外のママとはバカ話で盛り上がっているのに・・・どうも干されている気がするとのこと。実はSちゃんは自宅で学習塾を開いている。周りが専業主婦か、働くといっても内職ぐらいの主婦たちの中で、Sちゃんは異色の存在であった。他のママたちよりちょっとばかり知的で、教養があった。


 

そんな彼女を私はよく知っているから、周りのママ友から若干浮くのは致し方ないと思った。マジョリティから見て、異質なもの、理解できないものは、往々にして排除の対象になる。要するにSちゃんはやっかまれていたのである。聞けば他の所にまぁまぁ気の合うママ友もいるみたいだし、それにサッカーチームの保護者会にも強制参加というわけではないらしい。そんなこと気にしなくていいよ、他に気の合う人いるならその人たちと付き合えばいいじゃん、キャラの違う集団に溶け込めなくてもあなたの価値が失われるわけじゃないから、どんと構えていればいいよ・・・とアドバイスしておいた。しかし、Sちゃんは納得しなかった。どんな集団においても「中庸」でいたいのだと彼女は言った。要するにどこでも「そこそこのポジション」を確保しておきたいということだろう。随分つまんないことにこだわるんだな、とその時は思った。



 後日大分経ってから、今度はSちゃんのママ友の悩みを間接的に聞くことになった。以前記事にも書いたが、「つねに主流のグループでバカ話をしていたい、余り者同士でくっつくのは惨め」と言った人のことだ。私はその時も「随分幼稚な考えだねぇ、その人」と言った。しかしSちゃんは「あたしには彼女の気持ち分かるなぁ」と言った。彼女らしくない言い様で、私は少々戸惑った。以前のSちゃんは、そんなことを言う人ではなかったのだ。



 そしてちょっと前にあった時、ちょっとしたことで議論になった。こんなことは私と彼女の間ではよくあることで、取るに足らない出来事だったのだが・・・意外にも、そのことが長く引きずった。その次に会った時、Sちゃんの様子が少しおかしかった。どうでもいいことに突っかかり、批判のような皮肉のような物言いをする。言葉尻を捉えて否定的な発言をする。あまつさえ、既にしてあった約束をドタキャンしてきた。


 

Sちゃんと別れてから、私の心にイガイガした感触が残った。一体彼女はどうしてしまったのか?以前の議論を根に持っているのだろうか?しかしあの時はお互い本音で話したから、むかついたのはお互い様である。以前だってそうだったのだ。私も彼女も理屈っぽいので、とことん自分の主張を通そうとする。そうやって言葉を尽くして議論するのが二人とも嫌いではないのである。だからたとえ物別れに終わったとしても、後々まで引きずるなんてlことは無かったのだ。以前は。



 なんだかSちゃん、頭悪くなってないか?失礼ながらそう思ってしまった。もっと聡明で知的で精神的に自立した人だったはずだ。小さなことを根に持ったり、つまらないことで気に病む人ではなかったはずだ。周りの「気の合わない」ママともの中で疲弊してしまい、自分を見失ってしまったのだろうか。或いは、私が彼女のこういう部分を知らなかっただけかも知れない。また或いは、実は以前から私の言動にうんざりしていて、それが爆発した・・・?



 いずれにせよ言えることは、「人は変わって行くものだ」ということ。Sちゃんと私の境遇はまったく違う。既婚子無しの私と、義理親同居で2児の母の彼女。共通点は仕事と、感性だけである。だが、それで十分だと思っていた。生活環境の差など、友情を育むのに大した影響は無かろうと。しかし実際は、影響していたのかも知れない。



 互いに前の会社を辞めてから、会う回数はめっきり減った。(それでも月1は会っていたのだが)私は転職したり、資格を取ったりし、Sちゃんは塾を始め、二人の息子を育てた。Sちゃんにはママ友という人間関係はあるが私には無い。私は仕事の都合で夜遅く帰ったり、付き合いで飲み会に行ったり、資格試験のため学校に通ったりしたが、Sちゃんはそういうことは皆無である。この15年、考えてみればお互いの人生のトラックは随分かけ離れてしまった。喧嘩をしなくても、気が合わなくなるのは無理のないことかも知れない。



 私は関係の永続性をあまり信じない。毎日一緒に居た幼馴染も、どちらかが引っ越して会わなくなったら多くの場合それきりだろう。たまに会ったりしていれば違うかも知れないが、それでも頻繁に会っていた頃の関係とは微妙に違うはずだ。学生時代の友人と何十年ぶりかに会って、話題といえば思い出話ばかりになるのは、最早共通項を何も持たないからである。もちろん昔の友人と関係が復活することも間々あるだろうが、それは「昔の続き」ではなく、「新たに始めた」関係に近い。去る者は日々に疎し、である。



 私とSちゃんの関係も、いつの間にか変質していたのかも知れない。二人とも年を取ったせいかも知れないし、私かSちゃんに何か問題が生じたのかも知れない。はっきりした理由は分からないが、わかっているのはもうSちゃんと昔のように付き合えないかも知れないということだ。



 かなり寂しいことだが、受け入れなければならないのだろうか?それとも時を経ればわだかまりも消え、また以前のように屈託ない付き合いに戻れるのだろうか?今の所は分からない。しばらく様子を見てみようかと思う。



 これも人生、というヤツだ。