マイケル・ムーアの最新作、「SICKO」を観てきた。アメリカの医療制度の矛盾を痛烈に批判した作品だ。見終わった後、アメリカ人でなくて良かったと、心からほっとした。
アメリカの医療制度は国民皆保険制でなく、医療費の補助は民間の保険会社を通じて受ける。国民は自己責任で民間の保険に加入し、病院にかかったら保険会社に申請し、初めて補助が下りるという仕組みだ。日本のように一律3割負担ではない。払い戻される補助金は、受けた治療の内容によって差があるという。
日本だって毎月けっこうな保険料を納めているわけだし、納めるところが国か民間かの違いだけで、一見大して差は無いように見える。しかし・・・必ず7割の補助が受けられる日本と違い、アメリカは、補助を受けられるかどうかは土壇場まで分からない。保険会社の査定を通らないと、補助が下りない仕組みになっているからだ。
そして、この査定と言うのが殆どの場合、通らないことになっている。会社側がなんだかんだと保険金を出し渋るのだ。例えば新薬など、その効果が確かかどうか確証が無い場合、「実験的医療」とみなされて、保険金は下りない。実験的医療は自己責任で行うべき、と言うのが保険会社の考えだ。「必要のない(と保険会社が判断する)医療には、保険金は支払わない」というのが彼らのポリシーであり、それは不正請求を未然に防ぐためと言う、一見もっともらしい理由がある。
しかし、彼らの本音は「営利至上」であり、会社が少しでも利益を上げるには、加入者から保険料をたくさん取って、イザと言う時に保険金を支払わないと言うのが一番手っ取り早いやり方なのだ。あまつさえ、彼らは将来の保険金支払いのリスクを回避するために、既往症のある人には保険加入そのものを断ったりもする。
映画には、何年も前に患ったカンジダ膣炎を既往症とみなされて、保険に加入できなかった女性が登場していた。最終審査まで行き、あと少しと言うところで、手のひらを返すように加入を拒否されたのだ。「どう考えても納得行かない」とその女性はこぼしていた。当たり前だ。日本ではカンジダが既往症とみなされて生命保険に加入できないなんてことは無い。既往症とみなされるのは、糖尿病や心臓、腎臓疾患、ガンなどの重い慢性病に限られる。アメリカの保険会社のえげつなさは、本当にシャレにならない。
保険金支払いや保険加入を拒否された人々は、当然全ての医療費を実費でまかなわなければならない。アメリカの医療費はバカ高く、全てを自分で払って尚且つ生活に余裕がある人は少数派で、財産を処分したり、借金をしながらやっとの思いで医療費を払う。中には経済的な理由で治療そのものを受けられない人もいる。そういう人たちの中には治療できなかったせいで命を落とした人も少なくない。映画にはいくつもそんな例が挙げられていた。無保険でなく、ちゃんと保険に加入していた人たちなのだ。それでもイザと言う時保険料をもらえなかったせいで、治療すれば治るかも知れなかった病で、次々に命を落として行く。毎月の決して安くない保険料はきちんと納めていたにもかかわらずだ。
このような矛盾だらけの医療制度を作ったのはアメリカ政府であり、彼らの本音は「人の命よりも金」である。そしてこれは資本主義の市場原理を忠実に守った結果なのだ。富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる・・・これが今のアメリカ社会の現実だ。格差は「誰もが健康で文化的な生活を送れる」という基本的人権にも及んでいる。ほんの一握りの富裕層は最高の医療を受けられるが、貧困層は病気にもなれない。
もはやアメリカと言う国は、国家と言うよりも巨大な株式会社のようだ。CEOや重役たちによって利益は独占され、末端の社員(国民)は人並みの生活を送ることもできない。アメリカ政府にとって「福祉」とは一体何なのか、単なる無駄遣いだと思っているのだろうか?
世界を見回してみると、アメリカのような国がいかに異常かが分かる。映画にも出てきたが、イギリス、カナダ、フランス、キューバは基本的に医療費がタダだ。たとえどんな先端医療を受けたとしても、自己負担は一切無い。イギリスなどは、低所得者のために、病院までの交通費の払い戻しまでやっている。各国に共通してあるのは「助け合いの精神」。困った時はお互い様、というものだ。国は医療制度にかなりな額の予算を割いていて、それらは皆税金でまかなわれているのだが、国民の誰も文句は言わない。誰だって、一生病気にならないという保証なんかないからだ。
マイケル・ムーアも「なぜ?」と首をひねっていたのだが、こういう考えが何故かアメリカには浸透しない。国民皆保険制度は社会主義的とみなされて、毛嫌いされている。国家による医療の管理で、国民は自由に医療を受ける権利を侵害され、それは次第に思想統制にも繋がって行く・・・ほとんど妄想に近いが、これがアメリカ政府の国民皆保険制度への一般的な見解だと言う。もはや、「社会主義憎悪教」の信者か、とでも言いたくなる。
日本の医療制度だって欠陥だらけで決して最良とは言えないのだが、アメリカに比べると随分マシに見える。通常の治療なら一律3割負担だし、別に民間の保険に入っていれば、手術や入院した時に保険金が下りて、逆に黒字になってしまうことだってある。(現に私は経験がある)治療費が払えなくて借金したり、治療を途中で断念したりするような切ない選択は、初めからする必要がないのだ。
これは、とても大きなことだと思う。病気になった時に金の心配をしなくて良いのは、当たり前でなくてはならないのだ。イギリスやカナダ、キューバの人たちは、こうした点でとても恵まれている。私たち日本人も、アメリカ人に比べれば随分恵まれている。
マイケル・ムーアの作品は、描き方が極端な部分もあるけれど、大体において的を得て、真実を衝いていると思う。今回の医療問題批判も非常に痛快だった。こういう人がいることが、アメリカ社会の救いなのかも、と思う。
しかし・・・アメリカ人太り過ぎ。医療制度云々以前の問題だ。医療制度の貧しさが、彼らを暴食に走らせるのか?病的肥満体があまりにも多いから医療費がかさみ過ぎ、その結果医療制度が貧しくなったのか?どちらかは分からないが・・・。マイケル・ムーアも15キロダイエットしたらしいが、依然としてデブだったし。