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≪微妙に揺れる対日観/「近くて遠い」昔も今も≫

 物事は視座を移してみると、ときに新鮮にも意外にも見える。見えなかった部分も見えてくる。それでは-と、世界地図を90度回転させて日本を眺めてみた。大陸側から日本を見るときの角度である。今そうして見えてくるものは-。相変わらず好悪入り交じるなか、対日観はどこも、国内事情によって微妙に揺れ動き、国によっては好転の兆しもほの見える。



【中国】

 ■薄れゆくコンプレックス

 昨年11月、中国中央テレビ(CCTV)が12回続きのドキュメンタリー番組「大国の台頭」を放映、大反響を呼んだ。過去500年間に出現した9つの大国の興隆史を描いたものだ。日本もその7回目に「維新百年」のタイトルで登場する。

 1853年のペリー来航から明治維新へ至る過程を詳しく紹介、国を挙げて富国強兵を目指し、西洋に学んで改革を断行したことが短期間に大国になった理由とする。

 目新しい分析ではない。康有為ら清末の維新派の共通認識だったし、清朝自身も日清戦争に敗れた(1895年)後、官僚や留学生を大挙日本に派遣、日本の改革とその源泉になった「西洋」を学んだのだった。

 「大国の台頭」の約1カ月前、CCTVは、長崎など各地で取材したルポ番組「日本における孫文」で、孫文が宮崎滔天ら日本各界人士と親交を結び、辛亥革命の支援を受けた事実も伝えた。こうした歴史は、中国国民の多くは知らない。とりわけ江沢民前政権が抗日戦争を愛国主義教育の主題材にした結果、日本や日本人は残忍、傲慢(ごうまん)、狡猾(こうかつ)といったイメージがつくられ、軍国主義復活さえたくらんでいると宣伝された。その論拠は「日本が侵略の歴史を反省しないから」だ。

 1972年の日中国交正常化交渉の際、田中角栄首相が歓迎宴で過去の戦争について「迷惑をかけた」と述べたことに周恩来首相が「人民の感情を傷つける」軽い表現だと反発した話は有名だ。当時、多数健在だった戦争被害者の心情を代表したものといわれた。

 周氏は「日本では謝罪の表現」との田中氏の釈明をしぶしぶ受け入れた。賠償請求権を放棄してまで正常化を急いでいた周氏は、感情を抑え込むほかなかった。

 「感情を傷つける」という言葉は、その後しばらくして、歴史問題で中国が日本を批判するときの決まり文句になる。そこには中国の屈折した対日感情がある。19世紀後半以来、日本は中国を圧倒し、敗戦の打撃も素早く克服、中国人の盟主意識をずたずたにしてきたからだ。

 日本の経済協力を必要とした改革・開放初期には、良好だった対日感情は、経済発展とともに悪化していく。江沢民前政権が対日圧力に乱用した歴史カードによって、日本を敵視する民族主義を高揚した結果だ。中国はいま、大国としての自信を回復、対日コンプレックスは消えつつある。日本の政権交代を機に、対日政策にも変化が見えだした背景だ。

 「大国の台頭」では、日中戦争は簡単に触れただけで、戦後の復興と繁栄を重点的に紹介。その要因に教育の普及などと併せ、平和憲法、つまり平和主義を挙げ、軍国主義復活などという非現実的な対日認識から脱する試みが注目された。

 それが胡錦濤政権の「新思考」の表れかどうか、日中共同歴史研究などで判明するだろう。(伊藤正)

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【韓国・北朝鮮】

 ■高齢化学ぶべきお手本の国

 昨年末の韓国はドーハで開かれたアジア競技大会の話題に沸いた。マスコミはいつものように「勝った、勝った!」のニュースであふれ、金メダル数で日本を上回ったことに大いに留飲を下げていた。自信、余裕…いよいよ日本離れか?

 貿易額も昨年、ついに3000億ドルを突破した。韓国は今や世界10位級の“経済大国”だ。盧武鉉大統領は昨年中、20世紀の東アジア・イメージで「日本の侵略主義的傾向」をいいつのる“歴史タリョン(打令=嘆き節)”に余念がなかったが、この地域でもうそんな化石のような被害者意識は通用しない。

 韓国のナショナリズムは近年、全方位だ。南(日本)に向かっては竹島・独島問題で日本非難に忙しく、北(中国)に向かっては古代・高句麗の地をよこせといわんばかりに、領土意欲をむき出しにしている。

 政府の全面的なバックアップで「東アジア歴史財団」なるものも昨年、発足しているが、これは日本と中国を相手に二正面作戦の“歴史戦争”を想定したものだ。韓国にとっては自分たちと異なる歴史観、歴史認識はみんな“歴史歪曲(わいきょく)”であり“妄言”という。

 東アジアにおいて韓国は、北の中国、南の日本の間で、今や自らがこの地域の中心であるかのような雰囲気である。ソウルに長くいるとそんな錯覚を覚える。韓国中心主義の無理?

 ただ韓国における近年の反米・反日は、必ずしも親中ではない。歴史的経緯や中国経済の膨張ぶりから中国への警戒心は当然ある。だから、むしろ民族的将来像としては“中立国”なのだ。そのためには経済と軍事で独自の力が必要となる。反米自主など韓国の近年の“無理”はそこからきている。

 北朝鮮の金正日総書記もまた無理を重ねているが、今のところおそらく自信満々だろう。核保有、ミサイル発射、国連制裁決議、6カ国協議…世界は平壌に注目し、国際情勢は朝鮮半島を中心に回っている、と思っていることだろう。この無理と自己中心主義はやはり「同じ民族」である。

 スポーツにおける「勝った、勝った!」や“歴史戦争”そして領土意欲…韓国のこの民族的トレンドは今後も続くのか。実は中長期的には別の見方がある。急速な高齢化と低出産が意外な変数になりつつあるのだ。

 65歳以上はまだ10%未満だが高齢化のテンポは日本より速い。韓国は確実に日本の後を追っかけている。国内的には早くも年金問題や医療・介護、雇用問題が大きな課題として浮上しつつある。高齢化時代の法律、制度、行政から民間のシルバー産業、生涯学習さらには生き方や死に方など哲学まで、韓国にとって日本はお手本なのだ。

 アジアにおける高齢化先進国の日本に対し、韓国は“日本離れ”ではなく、新たな“日本に学べ”の時代を迎えるだろう。人間、年を取ればソフトになり、世の中が丸く見えてくる。韓国人の対日感情もいずれは緩和されるに違いない。

 北の“将軍さま”も今年は65歳の高齢化・年金世代に入る。指導者としてまだ人民を食わせられないまま依然、核だミサイルだと肩に力が入っている。日米と敵対しながら人民には相変わらず「苦難の行軍」でガマンを強いているが、年相応に「人民に優しい政治」を期待できないものか。(黒田勝弘)

(2007/01/03 12:20)

http://www.sankei.co.jp/kokusai/world/070103/wld070103006.htm


胡錦濤

胡錦濤・中国国家主席(共同)





金正日

金正日・北朝鮮総書記(ロイター)


どっちにしても、厄介な隣人には違いが無い。