福島県発注工事の談合事件に絡む一連の疑惑で、東京地検特捜部は23日午後、佐藤栄佐久前知事(67)について、収賄容疑で取り調べに踏み切る模様だ。容疑が固まり次第、逮捕するとみられる。ダム工事受注に便宜を図った見返りに、建設業者と実弟企業との間で行われたとされる土地取引を巡る資金の一部が、わいろに当たると判断した。水谷建設(三重県桑名市)の脱税事件に端を発した福島県のトップの疑惑は、汚職事件に発展する見通しとなった。
問題の土地取引の舞台は、前知事実弟の佐藤祐二被告(63)=競売入札妨害罪で起訴=が会長を務める衣料メーカー「郡山三東スーツ」(同県本宮町)の旧本社跡地(郡山市)。
スーツ社はこの土地を担保に01年、前田建設工業(東京都千代田区)側から4億円を借り入れ、02年8月に水谷建設に8億7000万円で売却し、前田側に借金を返済。さらに翌9月、祐二被告の経営する紳士服販売会社「オックスフォード」(06年3月清算)を経由する形で水谷側から1億円の融資を受け、03年2月に跡地売却代金を1億円上乗せする契約変更を実施した。3日後の同年3月、この1億円を返済していた。
この土地取引前の00年8月、前田建設が参加する共同企業体は県発注の木戸ダム(同県楢葉町)工事を約206億円で受注し、水谷建設も下請け工事を請け負った。水谷建設元会長の水谷功被告(61)=法人税法違反(脱税)で起訴=は、特捜部の調べに「ダム工事を受注した見返り」と認めていた。佐藤前知事は02年5月までスーツ社の取締役で、現在も筆頭株主となっている。
こうしたことから特捜部は、土地代金の上乗せ分の1億円がわいろに当たり、実態解明のためには前知事への強制捜査が不可欠と判断したとみられる。収賄側の公訴時効は5年だが、贈賄側は3年のため、既に時効が成立している。
一方、特捜部は、04年知事選で祐二被告らが業者から受領した数千万円を地元県議らに配った公選法違反(買収)の疑いについても、前知事の立件に向け捜査していたが、出直し知事選が事実上始まっていることなどから、収賄容疑での立件を優先する。
毎日新聞 2006年10月23日 15時00分
実弟を隠れみのに、県トップに疑惑のカネが渡っていた。23日、東京地検特捜部が強制捜査に乗り出す方針を固めた佐藤栄佐久・前福島県知事(67)に対する収賄疑惑。舞台となったのは、当初から不自然な取引と指摘され続けた弟の佐藤祐二被告(63)が経営する「郡山三東スーツ」本社跡地を巡る土地取引だった。業界から弟に流れた資金は、総工費約206億円のダム受注に対する見返りだったのか。特捜部の実態解明が始まる。
「本人へのカネが見えない。極めて厳しい捜査だ」。当初から検察首脳は口をそろえた。祐二被告は県発注工事を巡る談合事件で、1100万円もの謝礼を受け取っていた。他のゼネコンからも数千万円のカネが弟に流れ込み、知事選に利用された実態が浮かんだが、祐二被告と前知事をつなぐ「糸」が見えなかった。
特捜部が注目したのは、JR郡山駅の西約5キロにある土地。02年6月までスーツ社本社が置かれていた約1万1000平方メートルの土地を「癒着の縮図」とにらんだ。
02年8月、この土地を大手サブコン「水谷建設」(三重県桑名市)が約8億7000万円で購入。スーツ社はこのカネから、準大手ゼネコン「前田建設工業」(東京都千代田区)側への負債計4億円を完済していた。
さらに不自然だったのは約8億7000万円の売却額が、翌年2月に1億円上乗せされていたこと。「いくら付き合いがあるとは言え、一度購入した土地の価格を後になって『もう少し高かった』として支払うのは明らかに異常」(大手ゼネコン幹部)だった。
「木戸ダム」(楢葉町)は前田が落札した後、水谷が下請けに入っていた。特捜部の調べに対し、前田、水谷の両社の担当者は「受注の見返りだった」と供述した。前知事周辺も「カネは前知事への利益提供だと思っていた」と関与を認める供述を始め、知事サイドがひた隠しにした関係が浮かび上がったという。
このほかにも、04年知事選で、業者から祐二被告を通じて、前知事側に少なくとも数千万円が選挙資金として渡っていたことが、特捜部の捜査で裏付けられている。【川辺康広】
毎日新聞 2006年10月23日 15時00分