水谷建設(三重県)の脱税事件に端を発した福島県発注工事をめぐる談合事件。受注業者を指名する「天の声」発信者と、受注調整を要望する建設業界の双方が「代理人」を立ててなされた疑いが強まっている。平成5年のゼネコン汚職で顕在化した東北談合システムが、形を変えながら生き残っていたのだ。福島県では昭和51年、知事が収賄容疑で逮捕され、「政業癒着」に懲りたはずだった。が、過去の2大事件を経て、公共工事の発注者、受注者の利益折衝は表面的には見えなくなった一方、皮肉にも双方のダミーの暗躍を許す土壌が培われてしまった。(菅原慎太郎)
≪亡霊≫
ゼネコン汚職では、東北全域を仕切る談合組織「東北建設業協議会」の存在が明るみに出た。トップは鹿島東北支店副支店長(当時)。同会会長を務めた鹿島副支店長の許可がなければ、各社は工事をとれなかった。
その談合システムが13年を経て“亡霊”のように表面化した。福島談合事件でも鹿島がお目付け役になっていたことが判明。阿武隈川の流域下水道整備工事を受注した東急建設も“決裁”を鹿島東北支店に仰いでいた。
談合システムは形を変えて温存されていた。ゼネコン汚職仙台ルートの検察側冒頭陳述によると、仙台市長が直接、「チャンピオン」(落札予定会社)を決定し「天の声」を出し、ゼネコンが談合して各社の応札価格を決めていた。
福島談合では佐藤栄佐久知事(67)の周辺者で「裏秘書」ともいわれた設備会社社長、辻政雄容疑者(59)が「天の声」の役割を演じ、裏金を得ていた。
「辻容疑者に話を通さないと妨害されると思い仕切り役にしていたが、発注者側が官製談合を隠すため辻容疑者を利用していたのかも」とゼネコン関係者はいう。
≪汚れ役≫
「ダミー」を置いたのはゼネコンも同じ。水谷建設自体がゼネコンの汚れ役だった。「水谷建設は汚れ役を引き受ける“前さばき”で業績を伸ばした。ゼネコンは巧妙にダミーを仕立てた」と業界関係者。
ゼネコンなど建設業界は、佐藤知事実弟で衣料メーカー「郡山三東スーツ」(福島県本宮町)の佐藤祐二社長(63)に工事受注希望を伝えていた。その祐二氏と水谷建設の蜜月ぶりも地元では有名だ。スーツ社は、知事側の威光で下請け入りを繰り返した水谷建設との土地取引で、準大手ゼネコンの前田建設工業からの借金を帳消しにするほど利益を上げた。
「ゼネコン-首長」と直接的だった接触ルートから、双方のダミーが調整する構図に変化してきたことがあらわになったのが福島談合の大きな特徴だ。金の流れや役割が複雑化するため、「“トカゲのしっぽ切り”もできる」(関係者)巧妙な方法といえる。
≪甘い蜜≫
福島県では昭和51年、当時の木村守江知事(故人)が建設会社社長から県発注工事をめぐりわいろを受け取ったとして起訴された。同知事が4選を果たした直後の絶頂期、県や自民党県連幹部らも次々と逮捕され、「福島版ロッキード事件」とも呼ばれた。
しかし30年たった今も、不正してでも受注しようとするゼネコンを利用し、甘い蜜を吸おうという「たかりの精神」がまかり通っている。
辻容疑者は一部のゼネコンばかりでなく、多くの業者から恒常的に謝礼を受け取っていた疑いが強い。談合、天の声、見返りの謝礼…が常態化していたという。
佐藤知事は談合や「天の声」との関係を否定しているが、江花亮・元県土木部長(70)が特捜部の捜索を受けるなど、県中枢関与の疑いは深まりつつある。
談合で受注から外された業者は「地元の談合調整役の佐藤工業の幹部に苦情を言ったところ、上で決まっていると拒まれた。県土木部に相談したら『我々ではどうしようもない』と突き放された」と証言しており、県中枢部の関与をうかがわせている。
(09/19 02:14)産経新聞