【結月ゆかり】赤とんぼ 2017/08/13

トンボ とぼとぼ やって来た

舟に止まって流されて いつの間にやらこの地に

やって来た ユラユラゆれて気がつけば ヨシの

はっ葉に止まってた。

風にそよいで止まっていたが、心細い思いが沸い

て来て、トンボとぼとぼ歩きだす 空はと見上げ

れば青空に 白雲(しらくも)の筋ひと筋ふた筋と

悲しさがついてくる

 

トンボとぼとぼ歩いてゆく

いつの日か確かに其の頃飛んでいた。父さんや母さ

んに教えられ、あの空を飛んでいた。

いつから飛ぶこと止めたのか

前を向き横を向き、下を向いては考える

大きな目玉がキョロキョロと

僕は飛べないトンボの子

飛びたい気持ちも在るには在るが

それでも僕は飛べないトンボ

 

トンボとぼとぼ歩いてく田舎道 案山子が見ている

歌っている「おーい、そこのトンホ゛どうして

あの青空を飛ばないんだよ」

「ほっといてよ、僕はトボトボ歩きが好きなんだ」

「飛ばないトンボが一匹くらい居てもいいだろう」

 

「ねー、貴方どうしてお空を飛ばないの みんな楽しく

飛んでいるよ」「僕に話しかけるなんて君の方が

変な子だよ」「今まで僕に話しかけた女の子なんか

居なかった」「だって歩いているトンボなんて

今まで見たことないのよ」「ねー、一緒に飛ぼうよ

空は広くて自由だし、遠くの方まで見えるのよ」

「私ダンスは自信があるわ。とっても優雅に踊るのよ」

「みんなに注目されて女王様気分だわ」

「さあー、王子様お手をどうぞ、お空のホールで踊りま

しょう」「無理無理とっても無理だよ」

「だって僕は地面の上を歩くの気に入っているんだよ」

「第一空の上は捉まるところが無いんだよ」

「そんな不安なところ行きたくないよ」「増々貴方って

変な子ね」「そんなに僕に興味があるなら、君の方こそ

歩いてみたら如何。きっと納得するよ」

*

二匹で歩く野原道、「ふーん、変な感じね」

「飛んでる時より考え事が多くなるみたい」

「そうかもしれないね。僕は下を見ながら歩く。

だから、いつも何かしら考えているよ」

「どうしてそんなに考えるの」「訳があるの」

「特別な訳はないんだよ。みんなと同じ訳なんだ」

「ある時僕は空の上で、みんなと遊んでいた。そりゃー

楽しくて夢中で遊んでいたのさ。しばらくして僕の

名前を呼ぶ声がした」パパとママだったんだよ」

「最初ににパパがやってきて、僕の体に羽でパタパタ

と触れたんだよ」「その次にママがやってきて

同じようにパタパタと触れた」「そして二匹して

僕の方を見ると、スイーッとツツツと離れてゆく

しばらくすると僕の方を振り返り、スイーッとツツツ

と離れて行った」「やがて二匹の姿が夕焼けの中に

吸い込まれるように消えていった」

「でも僕は遊び仲間の事が気になって、変だなとは

気づかなかった」

「周りが暗くなるころには、いつもパパとママは

僕の事探しに来るのに、お星さま瞬く頃になっても

パパとママは姿を見せなかった」

「次の日もその次の日も、ずっと今まで僕の前には

現れることは無かったんだよ」

「そうなんだよ」「僕はパパとママが地面に落ちたんだ」

「そう思って毎日下を向いて歩いているんだよ」

「そうだったの 私は今までそんなこと考えたことも

なかった。だって毎日が楽しくて、直ぐに忘れて

しまったのね」「そういえば私もそんな時があった

はずね」「ねえー、トンボにはいつかそんな時

がやってくるんじゃない」「悲しいことは考えずに

あなたと私で楽しく暮らして行かない」

そして私たちの子供をつくりましょうよ」

「さあー、忘れてしまった飛び方の練習よ」

枯れ枝を登っては、羽を広げて飛び降りる

二匹のトンボのグライダー 段々距離を伸ばし行く

「すごいすごい頑張ったね」「君のおかげだよ 飛ぶこと

怖くなくなった」「よかった 今度はゆっくり羽ばたいて

二人でお空を飛んでみよう」

二匹のトンボが初めてお空を飛んだ。ゆっくりフワリと

飛び上がり、「大丈夫ね」「大丈夫だよ」と声かけ

あってお空を登ってゆく「遠くまで見えるよ」

「僕の歩いてきた道があんなに小さく見える」

「さあー王子様一緒に踊りましょう。今度は貴方が

お姫様を大事にする番よ」二匹のトンボが踊りだす「

ゆっくり優雅に踊りだす お空の風も優しくね 二匹

のお空デビューに微笑んで、時々ヒューヒューと口笛

ならしてる。

あれから季節も変わり二匹の姿が山の中、小川のせせらぎ

さらさらと、流れの音もさやかに聞こえて、「さあー、

始めるわよ。しっかり私を支えてね」「もう少し低く、私の

尻尾が水面に触れて卵を産んだら、飛び上がるのよ」

トンボは飛んでは下がり、水面に触れては飛び上がる。

「あなた、終わったわ」二匹のトンボはクルクルお目目を

見合わせて、「来年には私たちの子供たちに会えるのよ」

返事の代わりに羽を優しくなでている

「来年には僕たちパパとママだなんて夢のようだね」

「君との出会いが無かったら僕はまだトボトボ歩きしていたよ」

「さあー、あなた今夜の寝床を探しましょう」

「時々は様子を見に来ましょう」「でも生まれた子が僕たちの

子供だってわかるかな」「きっと私たちに似ているわよ」

 

やがて水の中で沢山のヤゴが元気に泳ぎ回る

「あの中に私たちの子供たちがいるのよ。みんな元気で

よかったわ」「もう2、3日すればきっと脱皮が始まる

これからは毎日見に来ましょうね」

2日目の朝が来て、「ねー、あの子じゃない。羽の模様が

あなたにそっくりだわ」「ほら、あの子の羽は君にそっくり

だよ。」「羽がしっかり整ったら一緒に空に上がりましょう」

 

夢のような月日が過ぎてゆく 子供たちもすっかり大きく

なって、今では私たちよりも上手に飛ぶことができる程

仲間たちともあんなに楽しそうに遊んでいる

 

「ねー、あなたそろそろその時が来たのかもしれないわ」

「そうだね、以前のように素早く飛ぶことが出来なくなった」

「エサを捕まえることも大変になってきた」

「潮時が来たのかもしれないね」「僕は君と出会えて本当

に良かった。ありがとう」「私だって同じよ トボトボ

歩きのトンボさん あなたがトボトボ歩いてくれたから

私はあなたに出会えたの」「そして子供にも恵まれた

本当にありがとう」「それじゃ子供たちに挨拶して私たち

だけの世界に入っていこうか」「そうしましょうアナタ」

最初は男の子、遊びに夢中だね「そっと近づいて羽を

パタパタ」今度はママが近づいて「羽をパタパタ」

次は女の子「どうしたのパパとママ」「なんでもないよ」

パパが近づいて「羽をパタパタ」今度はママが近づいて

「羽をパタパタ」それから2匹して顔を見ながら

スイーッとツツツと離れてゆくしばらくすると

子供の方を振り返り、スイーッとツツツと離れて行った

「お別れできたね。ほら見てごらん夕焼け空がきれいだね」

「僕が君を抱きかかえるから、僕の手にしっかり捉まって

力の限り飛び続けるからね。そうだ飛びながら思い出話

しようね」二匹のクルクルお目目は、夕焼けを映して

少し赤味を帯びて潤んでいるように見えた。

スィーッとフワリと飛んで行く。下から見上げて

「ラストダンスをありがとう王子様」「君のおかげで

バラ色の日々を送れたよ。お姫様素敵な一生をありがとう」

夕焼けに向かって2匹のトンボが飛んで行く

スィーッとフワリと飛んで行った。

おわり

 

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