マサヒコの読書日記

マサヒコの読書日記

 私は、本が好きです。特に、小説や物語。読書好きなあなたのために、私が読んだ本を紹介します。そして、あなたの大好きな本を教えてください。

クイズって、こんなに面白いものだったのか

 

小川哲さんの『君のクイズ』を拝読しました。

クイズそのものが面白い。

けれど、この作品を読んで私が特に惹かれたのは、正解そのものではありません。

その答えにたどり着くまでの思考過程。

そして、その思考の背景にある一人の人間の人生。

さらに、

「なぜ、問題文が一文字も読まれていないのに正解できたのか」

という謎です。

クイズを題材にしながら、いつの間にか一人の人間を追いかける物語になっていく。

そんなところに、この作品の大きな魅力を感じました。

 


あらすじ

 

物語の舞台は、クイズ番組の決勝戦。

主人公の三島玲央は、決勝戦で対戦相手だった本庄絆が、

問題文が一文字も読まれていない段階でボタンを押し、正解したことに強い違和感を覚えます。

 

いわゆる、

「ゼロ文字押し」です。

 

問題が読まれていないのに、どうして答えが分かったのか。

偶然なのか。

それとも、何か理由があるのか。

三島は、その謎を解こうとします。

そして、過去の問題を一つずつ振り返りながら、

本庄がどのように答えを導き出したのかを考えていきます。

 

一問のクイズをきっかけに、三島の記憶や本庄との関係、

そして二人が歩んできた時間までが少しずつ明らかになっていきます。

「ゼロ文字押し」という一つの謎から始まった物語は、やがて、

知識とは何なのか、人はどのように世界を記憶しているのか

というところまで広がっていきます。

 


クイズを正解するまでの「思考過程」が見事

 

私が面白いと感じたのは、クイズの答えそのものではなく、

「どうやって、その答えにたどり着いたのか」が描かれていることでした。

 

クイズというと、私はこれまで、

「知っているか、知らないか」というものだと思っていました。

答えを知っていれば正解。

知らなければ不正解。

そんなイメージです。

 

ところが、この作品を読んでいると、クイズに答えるということは、

それほど単純なものではないことが分かります。

問題文のほんの一部分から、

「この言葉なら、あれではないか」と連想する。

そこから、自分の持っている知識を引っ張り出す。

いくつかの可能性を考える。

そして、

「おそらくこれだ」と判断して、ボタンを押す。

その頭の中で起きていることが、読者にも見えるように描かれているのです。

 

私は、

「クイズ王の頭の中では、こんなことが起きているのか」と驚きました。

知識が一つ一つ独立しているのではありません。

 

ある知識から別の知識へ。

一つの言葉から、別の言葉へ。

それまで蓄えてきたものが、ものすごい速さでつながっていく。

そして、そのつながりの先に答えが見えてくる。

だから、この作品を読んでいると、

「答えを知ること」よりも、「答えにたどり着く過程」のほうが面白いと思えてきます。

クイズというものを、少し違った角度から見ることができるようになりました。

 


クイズは、その人の人生とつながっている

 

もう一つ、心に残ったのは、

人が持っている知識は、その人の人生と切り離せないということです。

 

クイズでは、たくさんの知識を持っている人が有利です。

でも、その知識は、どこから来たのでしょう。

その人がこれまで読んできた本。

見てきた映画。

耳にしてきた音楽。

興味を持って調べたこと。

誰かとの会話。

子どもの頃の経験。

何気なく見たテレビ番組。

そうした一つ一つが、その人の中に蓄積されている。

そして、ある問題を聞いた瞬間に、それらがつながって答えとして現れてくる。

 

そう考えると、

クイズの答えは、その人がこれまで生きてきた時間の中から取り出されている

のかもしれません。

同じ問題を聞いても、何を思い出すかは人によって違う。

すぐに答えられる人もいれば、まったく思い浮かばない人もいる。

その違いをつくっているのは、単なる記憶力だけではなく、

その人がこれまで何に興味を持ち、何を見て、何を考えて生きてきたのかなのだと思います。

そう考えると、クイズというものが少し違って見えてきます。

 

クイズは、知識を競うゲームであると同時に、

その人がどんな世界を生きてきたのかが、ほんの少し見えるものなのかもしれません。

 


「ゼロ文字押し」の謎を追うワクワク感

 

何よりも私を夢中にさせたのが、

「なぜ、本庄は問題文が一文字も読まれていないのに正解できたのか」という謎でした。

 

そんなことが本当にできるのか。

最初から、この疑問が頭から離れません。

三島と一緒になって、「なぜだろう」と考えながら読み進める。

一つの可能性が見えてくる。

けれど、それだけでは説明できない。

また別の可能性が浮かんでくる。

そうして読み進めるうちに、今度は本庄という人物そのものが気になってくる。

 

何を知っているのか。

なぜ、それが分かったのか。

いったい、何を考えているのか。

 

「ゼロ文字押し」という一つの謎を追いかけていたはずなのに、いつの間にか、

その謎の向こうにいる一人の人間を追いかけている。

この展開が、とてもワクワクしました。

 

クイズを題材にした小説ですが、読んでいる感覚は、まさにミステリー小説です。

謎が一つ解けると、また次の謎が生まれる。

その「知りたい」という気持ちが、最後まで途切れませんでした。

 


クイズの答えの向こうに、人がいる

 

『君のクイズ』を読み終えて、私の中に残ったのは、

単純な「面白かった」という感想だけではありませんでした。

 

クイズの答えを導き出すために、人は頭の中にある知識をつなぎ合わせる。

その知識は、その人がこれまで生きてきた時間の中で蓄えられてきたもの。

そう考えると、

一つの正解の向こう側には、その人の人生がある

ように思えてきます。

 

そして、その「正解」にたどり着くまでの思考を追いかけることが、こんなにも面白い。

小川哲さんは、「クイズ」という非常に限定された題材を使いながら、

知識、記憶、思考、そして人間そのものを描いているのだと思いました。

 

何より、

「問題文が一文字も読まれていないのに、なぜ答えられたのか?」

という最初の疑問が、最後まで私を物語の中につなぎ止めてくれました。

クイズが好きな方はもちろんですが、日常生活や仕事でも、

「人は、どうやって考えているのだろう」

「この人は、どうしてその答えにたどり着いたのだろう」

と、思考を深めるのにぴったりの一冊です。

 

※イラストは、本ブログ用に生成したイメージ画像です。