タワーリングタロット
第二章【塔(タワー)】
夕暮れの首都高速湾岸線に十数台のバスが連なって走っている
そのバスの一台
バスの座席は満席
殆どの搭乗者達は老若問わず男性だった
車内の搭乗者達は全員黒いパーカーを着用し誰一人として喋っている者はいない
すると突然
「タコォ~!」
「!」
沈黙が続いていた車内から大きな叫び声が上がる
「タコッ!タコッ!」
男はうっすらと白髪がみえる
50代くらいの細身の男性
座席から立ち上がり
意味不明な言葉を叫び続けている
「タッタッコォ!」
「ちょっ!
ちょっと静かにして下さい」
叫けび出した男に
困惑している隣の男性
「勝浦さん!
ほっときなよ!」
薄毛で痩せこけたひ弱そうな
中年男性を他の搭乗者達は
『勝浦(かつうら)』と呼んでいた
「タッコォ~!」
「こっこんな人
南鮮會の労働施設で見た事がない
名前は何と言うのですか!?」
「タコタコタコ~!」
「タコ?」
名前を聞いても『タコ』というフレーズだけを連呼する男
「その人を知らないのですか?」
「!」
突如車内に やんわりとした
高い声が聞こえた
「女性?」
「今の声は誰だ!?」
タコ男の奇声とは違ったざわつきが車内に広がる
「声を出したのは私です」
「!」
その声はバスの最後部から聞こえる
最後部の5つの座席の真ん中でフードを深く被って俯いていた人物が
フードをゆっくりと脱ぎ出す
「!!」
車内の搭乗者達が
その顔を見るや驚く
「うっウソだろ!?
しっ
『市川菜々美』!?」
「えっ!?
『ななみん』!?」
「ななみん
無事だったの!?」
フードを脱いだ中から覗かせた姿は長い黒髪の少女だった
その少女は車内の搭乗者達に
『市川(しかわ)』
あるいは
『ななみん』とニックネームのようにも呼ばれていた
「タコォ…」
突然
奇声を上げていたタコ男が市川の声を聞くなり黙り込んでしまった
「ななみん!
無事で良かった!
前回のゲームでキミがいたのには驚いたんだ!
このバスに乗っているという事は前回のゲームに負けて今日まで南鮮會の労働施設に連行されていたのかい?」
隣にいる男性が市川に質問する
「前回は良いとこまで行きましたが結局負けてしまったんです
そして
皆さんとは別の施設で強制的な労働をさせられていました」
「なんだって!?
菜々美ちゃんはまだ中学生じゃないか!」
搭乗者達が驚く中
笑顔を振りまき質問に答える市川
すると勝浦が
黙り込んでしまったタコ男を指差し市川に質問する
「菜々美ちゃんはこの人を知ってるって言ってなかったかい?」
何かを思い出すような沈黙の後
勝浦の質問に答える市川
「…私の知ってる人に面影が似ていたんです
でも
髪型も違うし
そもそも私の知っている人だったらこのバスに乗ってはいないはずです
人違いでした」
「参加者の皆さん
お静かにお願いします」
「!」
車内のスピーカーから
低い男性の声が流れる
「後30分程度で
今回の南鮮會闇遊戯
タワーリングタロットの会場に
到着致します」
「!」
バスの前方で黒いスーツ姿の男性が車内アナウンスを始める
「皆さまは前回の闇遊戯
『スペクター オブ プリズン』で一千万未満の負債を背負い敗退され南鮮會の施設に連行された方々です
そして
今回のタワーリングタロットで
再起を果たすべくして参加する
『リベンジ組』と呼ばれる方々であります
まず
皆さまに挑戦して頂く事は
タワーリングタロットの本会場に向かう事であります
これは
本戦に参加する為に行われる
『予選』です
それでは
開封禁止とされていました
『封筒』を開いて中にあるカードを取り出して下さい」
車内に幾重にも聞こえる封筒を開く紙の音
「…コレは?」
カードを見るや頭を傾け呟く市川
そのカードには
『塔』が落雷で破壊されている絵が描かれていた
「それは占いなどで使われる
タロットと呼ばれるカードです
そのタロットカードは
1セット22種類あり
今皆様が所持しているカードは
『塔(タワー)』
と呼ばれるカードです
予選通過の条件は
『本会場である
大韓国際タワー31階受付へ
今夜21時までに集まって頂く
という条件です』」
勝浦はバスの前方にあるデジタル式の時計に目を向けた
デジタル時計は17:32と
表示されている
「その際に一人一人にあらかじめ伝えてございます
『四桁の暗証番号』と
塔のカードを31階受付に提示して下さい
『塔のカードと暗証番号と
本人の名前を承認』して
本会場で使用するIDカード
『愚者(フール)』のカードを作成しお渡し致します
21時までに愚者のカードを
手に入れる事で予選『塔』を
通過する事ができます」
シーーン
車内に沈黙の時が流れる
その沈黙の間をとり
車内アナウンスは続く
「『予選脱落の
判定基準は二通り』」
「!」
「一つめは
『21時までに愚者のカードを
作成出来なかった参加者』
二つめは
『大韓国際タワーの
敷地から出てしまった参加者』
以上の二つの条件で
予選敗退の基準がなされます
予選敗退者はこのバスに再度乗っていただき南鮮會専用機で韓国にある南鮮會施設に逆戻りしていただきます
ご質問はございますか?」
南鮮會の男は一通り説明を終えると参加者に対し
質問を受け付けた
すると
バス中ほどに座っていた若い男性が手を挙げる
「予選開始時刻は
何時からですか?」
南鮮會の男はバスの前方を指差しながら質問に答えた
「前方に見えるビルが
大韓国際タワーです
このバスから下車した瞬間に
予選は始まります」
「えっ?」
その答えに車内がざわつく
「どういう事だ?
バスが18時に到着したとしても21時までには3時間もある」
「31階に行けばいいだけなのに3時間もかかるわけがない」
この予選の
得体の知れない不安感が
車内に充満する
「各バスの参加者にも伝えるヒントですので皆様にもお教え致します」
「?」
「『この予選は推理ゲームです』
『31階に行くヒントは皆様が所持している
『塔のカードです』
それ以上のヒントをお教えする事は出来ませんので
ヒントに関する質問は
一切受けつけません」
「ヒントってどういう事だよ
階段やエレベーターで上がれば
直ぐに着くじゃないか」
一層の不安感が漂う車内
勝浦は自分が所持している塔のカードを眺める
「カードがヒント?
落雷が落ち塔の上が破壊されている
その塔から人が落ちている」
小さな声で呟く勝浦
国際タワーと呼ばれる
塔(タワー)で行われる予選と
カードに描かれた凄惨な光景
その不気味な共通点に表情を歪める勝浦
先程の騒ぎようが嘘のように
隣のタコ男も自分のカードを眺めている
「ん?」
徐に横を振り向いた勝浦が
塔のカードの絵柄を逆向きで眺めているタコ男に気がついた
「タコさん!
それは逆ですよ!?」
「タコォ?」
勝浦が絵柄が逆だと指摘しても絵柄の向きを変える事なく眺めるタコ男
「脱落の条件の一つに
『敷地から出てはならない』
と言っていたが脱走されても追跡する事が出来るのか?」
どこからか聞こえてきた質問に
南鮮會の男は即座に答えた
「どうぞご自由に
脱走して頂いて結構です」
「なっ!」
南鮮會側の返答で車内は今までに無いざわめきが湧き上がる
すると
運転席の助手席に座っていた男が突然立ち上がる
「!
『ウマル様』」
茶色のソフトハットを被り
大きいサングラスをかけ
手には白い杖を持つ男は
南鮮會の男に
『ウマル』と呼ばれた
「…マイクをよこせ」
今までアナウンスをしていた
南鮮會の男からマイクを取り上げるウマル
すると
「…醜い質問だ
くだらん発想をするでない」
「!」
若干の訛りのある言葉使いで
語り始めたウマル
「お前達が脱走すればどうなるかを教えておいてやろう
お前達が逃げ出し
その先の人生を隠れながらやり直すのは一向に構わん
だが
お前達の身の回りの情報は
全て南鮮會がデータベース化している
その情報を頼りにお前達に携わってきた親族や仲間を代わりに拉致し強制的に労働してもらう
それでも構わないのなら
脱走するがいい」
シーーン
恐怖心に犯された車内の参加者は
ただ沈黙するだけだった
「皆さん!
『恐れてはいけません!』」
「!」
沈黙を破る大きな声
その声の主は
静かに話しを聞いていた市川が
突然立ち上がり
張り上げた声だった
「皆さんは一年間
血を吐くほどの労働と
狂乱してしまうほどの
精神の負担を耐え抜いたんです!
もう恐れるモノは無いはずです!
闇遊戯は
『みんなで助け合い欲を捨てれば
必ず勝者になれます!』
そして
南鮮會の方々にここでハッキリと伝えておきます!
ここにいる『リベンジ組』は
日々の苦悩を耐え抜き
今日という日を待ちに待っていた『強い方々です』
ですから
言葉で煽り
恐怖心を植え付けるのは
無駄な事です!
決して
あなた達の思い通りにはなりません!」
叫ぶような強い市川の言葉に
息を飲む参加者達
そして
その言葉で目が覚めた参加者達は
強い団結力を確認するように
互いに目を合わせる
そこには今まで車内に漂っていた
不安感は無くなっていた
「…アイツが市川菜々美か」
静かに呟くウマル
そして
自分の席に腰掛けると
不気味な笑みを浮かべる
「…大した小娘だ
一年間
『狂気に満ちた性欲者を相手にしていた強い精神力は認めるしかない』」
十数分後
バスは大韓国際タワーの
地下駐車場に止まった
TO BE
CONTINUED