「どうしたんだ?
なぜ二人とも驚いた顔で
俺を見つめているんだ?」
無言で館山を睨む香取と房
そんな二人に
笑顔で問いかける館山
すると
「…館山さん
アナタはここにいる房に星を渡したのではないですか?
星を渡してしまったらゲームをクリアしてこの部屋に戻ってくる事はできない
そんな疑問から私達は
驚いているのです」
静かに館山へ問いかける香取
その表情はふてぶてしく笑顔を見せる館山の態度を
嫌うような険しい表情
「クリア出来ない?
こんな簡単なゲームがか?」
「!」
館山は静かに呟くと
呆れたような表情で香取を眺める
そして
ゲーム【星】の攻略について語り始めた
「このゲームは『元の部屋に戻った参加者が勝者』になるゲームだ
勝利の条件である1時間以内に3人の『誰かが必ず①~⑤のルームを通り元の部屋に戻る』という条件を行い残りの2人は『部屋を逆戻り』して元の部屋へ移動し勝者になるわけだ」
「逆?」
「ルール説明では
『進まなければならないとは
説明していない』
説明していたのは
『星はルームの移動に
使用するという事』
つまり
『先に進もうが逆戻りしようが
使い方は自由』」
「…」
「俺と我孫子は互いに1つの星を
房に渡し①~⑤のルームを通り
元の部屋に戻るという条件を
房に頼んだだけ
俺は我孫子から星を1つ貰い
3つの星を所持すると
1つめの星を
①~②のルーム移動に使い
2つめの星を
②~①のルームの逆戻りに使い
3つめの星を
①~元の部屋への更なる逆戻りに
使用した
我孫子は1つしか所持していない
星を使い①~元の部屋へ
逆戻り移動しただけ
第⑤ルームから元の部屋に戻る条件で獲得できる
『4百万円のボーナス』は
獲得できないが
俺は元の部屋から①、
①から②、②から①、
①から元の部屋と
4回のルーム移動を行い
『8百万円』を獲得し
我孫子は元の部屋から①、①から元の部屋への
2回のルーム移動で
『4百万円』獲得した」
淡々と説明をする館山は俯いて黙っている房に視線を向ける
「…房
お前に本当の攻略方法を説明しなくて悪かったな
お互い初対面という事もあって
お前の『信頼性』をチェックさせてもらったんだ」
声をかけられた房は頭を下げたまま黙り込んでいる
「香取
木更津と市原はどうした?」
館山の冷ややかな視線が
次に向けられたのは香取
「お前が考えている以上に木更津は計算している
そんな木更津が
『わざわざ敗者になったのには何か理由があるんじゃないのか?』
例えば俺が房に試したように
信頼性を探っているとか」
パリーーーン
突然部屋に砕かれたような
高い音が響く
その音は香取が手に持っていた
コーヒーカップが床に落ちた音だった
香取はゆっくりと両手をポケットに入れ不気味な笑みを浮かべる
すると
「…私は木更津さんと市原さんに一円も払う気はありません」
「えっ!?」
突然言い放った香取の言葉に表情を強張らせる我孫子
「香取さん!?
どういう事ですか!?」
我孫子の問いかけに返答せず黙り込む香取
「クックッ」
「!?」
香取のふてぶてしい態度に嘲るような含み笑いを見せる館山
「…我孫子
どういう事もない
この『ムッツリ野郎』は
木更津と市原に一円も払う気が無いという単純な回答だ」
「そんな!」
香取の表情をまじまじと眺めながらゆっくりと歩き始める館山
そして香取の前で歩みを止めると意味を含ます笑顔を見せる
「香取
それがお前の得意とする
『交渉術』か?
くだらなすぎてガッカリしたよ」
香取は特に館山の言葉へ返答する事なく黙ったまま立ち尽くす
館山は反応の無い香取から視線を離すとポケットから『契約書』を取り出した
ビリッ
おもむろに契約書を1枚切り取った館山は我孫子に視線を向ける
「我孫子
お前の契約書にIDカードの番号と
このゲームで獲得した4百万を利用して『木更津を買い取る』と明記するんだ」
「…はい」
館山に言われるがまま疑う事なく契約書に『木更津の買取の契約』を明記する我孫子
そして部屋にいるスタッフに契約書を手渡した
契約書を渡されたスタッフは手持ちのタブレットを使い我孫子の本人確認を始める
バリ
「!?」
バリッ
バリバリッ
突然
何かを砕くような音が部屋に響く
「?」
音の出所へ視線を向ける我孫子
その音は香取が床に散乱する
割れたコーヒーカップの破片を
踏みつけている音だった
すると
「…残念ですが
木更津さんと市原さんの合計負債額は『1千4百万円』です
今の館山さんの話しではアナタ達二人の合計獲得賞金は『1千2百万円』
残りの『2百万円』は
どうするつもりですか?」
「…ほう」
香取の話しを聞き僅かに口元を緩める館山
「…よけいな事をベラベラと」
「?」
部屋の隅で俯いている房から
僅かに聞こえた声
しかし
あまりの小声に何を喋ったのかまでは誰一人として分からなかった
「…そうか
木更津と市原の合計負債額は1千4百万なんだな」
館山は手に持つ契約書に何かを記すとスタッフに手渡した
僅かに笑みを浮かべ香取の表情を探るように眺める館山
「木更津と市原の負債額が
分からなかったから助かったよ香取
契約書には買い取るモノの金額を正しく明記しないと買う事ができないからな」
館山の話しを聞き呆れたような表情を伺わす香取
「アナタと我孫子さんで木更津さんの負債を買い取ったのですか?
ですが残念です
私が二人の負債額を教えたところで市原さんは買い取る事ができませんよ?」
「残りの2百万円は房さんに払ってもらいます!」
俯いて黙っている房に聞こえるような大きな声を張り上げる我孫子
「へぇ~房に頼む?」
馬鹿にしたような口調で呟く香取
「房さん!
アナタの賞金から2百万円を僕の仲間の為に払ってくれませんか?
2百万円払ってもアナタは残り1千2百万円の賞金が残ります」
我孫子の言葉へ返答せず俯く房
しかし
「ボ…
ヴォ…」
「?」
俯く房から聞こえ出す不気味な肉声
「ボ…ぼ…
ヴォ…ぼ…」
その肉声に我孫子の表情が強張る
「ふっ房さん!
そもそもアナタに考えている余地はないですよ!
アナタのIDカードは館山さんから僕が譲り受けています!
話しが進まなければお互いが潰れるだけなんです!」
何も音沙汰の無い房の態度に不安げな表情を浮かべ声を張り上げる我孫子
「ぼ…ボ
フォ…
ホ…ボホ」
「…我孫子無駄だ」
「え!?」
奇妙な肉声を発している房に冷ややかな視線を向けていた館山が静かに語り始める
「…我孫子
房と『交換』したIDカードのID番号を読んでみろ」
「番号?」
我孫子はポケットから房と交換したIDカードを取り出し番号を調べる
「…1955番?
この番号が何か?」
「お前はその番号に聞き覚えがないか?」
「聞き覚え?」
「その1955番のIDカードは
『本戦のルール説明の前にカードを無くしたと言っていた男のIDカードだ』」
「えぇっ!?」
「お前が一緒になって探そとしたが木更津に止められた事を覚えているだろ?
その無くなったカードはそこにいる房が持っていたんだ
そして自分のIDカードではない偽カードを保証として俺に渡したのさ
これは典型的な
『カードの偽造詐欺』
房本人のIDカードは
自分が持っている
つまり俺達が『敗者』になっていたら見殺しにされていたという事だ」
「そんな!」
「拾ったのか盗み取ったのか
どちらにせよ俺達に偽カードを渡した『低俗な詐欺師の房』が絶対に2百万を木更津と市原に払うことはない
だから相手にするだけ無駄だと言ったんだ」
館山に見抜かれた房は尚
頭を下げたまま動こうとしない
「IDカードの番号と登録されている顔画像が一致しました」
「!」
タブレットを使い本人確認を行っていたスタッフが話しに割り込むように声を張り上げる
「我孫子様と館山様の『契約』は有効とします」
スタッフが契約書の有効を告げる
すると
ガチャ
「木更津さん!
市原さん!」
扉が開き部屋に入ってきたのは木更津と市原
我孫子はその2人を見て大きな声を上げる
木更津と市原を見るや香取の表情が僅かに変化する
「香取ぃ!
どういうつもりだ!?」
扉から現れた市原の表情は険しくその視線は怒りに満ちあふれている
「俺達を買い取ったのは我孫子と館山だとスタッフから聞かされたぜ!?」
市原の熱い眼差しとは対照的に黙ったまま冷ややかな視線で市原を眺める香取
「でもどうして
木更津さんと市原さんが
復活できたんだ?」
木更津と市原の買い取り金額が2百万足りない疑問に我孫子が独り言のように呟く
「『足りない分の2百万円は俺が借金したんだ』」
「!?」
突然口にした館山の言葉に頭の整理がつかない我孫子
何かを探るようにゆっくりと辺りを見回す館山
すると
「我孫子は契約書に
『木更津の4百万円の負債を
買い取る』と明記し
俺は『木更津の3百万円の負債を
買い取る』事と
『市原の7百万円の負債を
買い取る』事の
二項目を明記したんだ」
館山の説明を聞いていた市原は我孫子と同様に表情を強ばらせ黙っている
対照的に表情一つ変えることなく館山を眺める木更津
ゆっくりと我孫子に視線を向ける館山
その視線は強い意志を感じる鋭い視線
すると
「…我孫子
お前は『俺に頼り過ぎている』
このままではお前の才能が潰れたままで俺達は負けてしまう
どのタイミングであれお前の才能を開眼させる為に俺は脱落する予定だった
後は復活させた木更津と市原と共にタワーリングタロットをクリアし俺や参加者を買い取れば問題ない」
「そんな!
館山さんの力無しでは
僕は何も出来ません!」
僅かに潤む我孫子の眼
身体は僅かに震えていた
「俺の負債を肩代わりしただと!?
館山ぁ!
俺は納得しないぞ!」
声を荒げ詰め寄る市原
そんな市原に冷ややかな視線を向ける館山
「市原
お前もどうしちまったんだ?
今までお前はどれほど
『俺達の為に自分の命を
賭けてきたんだ?』
そんな精神力を持つお前が
俺の身代わり行動を
否定するつもりか?」
「くっ!」
市原は館山の言葉を聞き何かを思い起こしたように歯をくいしばる
「…よく聞け我孫子
お前が誰も頼らず本当の力を発揮すれば誰もかなわない
『それほどの力を
発揮しなければならない場面が
必ずやってくる』」
「…館山さん」
我孫子は力尽きるように両膝を床につけて座り込む
すると
「ボ…
ホ…
ホホホ」
房の不気味な声はいつしか
重苦しい含み笑いに変わっていた
そして俯いていた顔をゆっくりとあげ手に持つIDカードを晒す
「館山ぁ!
この俺様を『低俗な詐欺師』だと
ほざきやがったな!
このIDカードが誰のIDカードなのかが分かっているのか!
俺が交換したIDカードは
我孫子のIDカードだ!
この先を期待している我孫子のIDカードを今すぐ俺がへし折ってやってもいいんだぜ?」
勝ち誇ったようにIDカードをちらつかせる房
「…房さん
アナタは一体」
予測不能な変貌を繰り返す房の態度に心の声が漏れ出す我孫子
「…多重人格だよ」
「え?」
呆然とする我孫子に声をかける館山
「偽りばかりの房が『多重人格障害』であるのかでさえ疑問だが
仮に『多重人格であるとすれば
騙し合いの中では究極の才能』
…かもな」
TO BE
CONTINUED