倒れ込んでいた房がゆっくりと立ち上がる
「大丈夫ですか?」
心配そうに声をかける我孫子
しかし
房は返事も返さず頭を下げた状態で館山の方へ歩き出す
そしてIDカードを取り出すと館山に差し出した
すると
「…IDカードは『交換』だ」
「…」
房からの突然の提案に一拍間をおく館山
そして
何かを察したかのような不敵な笑みを浮かべる
「…ほう交換か
房
俺のIDカードとお前のIDカードを交換する理屈は何だ?」
房は館山の問いかけに顔を下げたままで返答をし始める
「『お前達』を買い取った後にIDカードを返してもらえないという可能性がある
お互いがIDカードを交換しておけばそれが保証になる」
その口調は『別人』ともいえるほど房の口調が『変貌』していた
その変貌した口調に唖然としていた我孫子は我に戻ったかのように話しに加わる
「そっそれは
正しい考え方ですよ!
館山さん!
僕のIDカードを房さんのIDカードと交換しますよ!」
相変わらず冷ややかな視線を房に向ける館山
すると
「…そこまで考えているとはなぁ
そういうリスクがお前にあるというなら俺達も信頼関係を築くうえでIDカードを渡すとしよう」
館山は房が差し出しているIDカードを手に取る
「…我孫子
お前のIDカードを
房に渡してやれ」
「え?」
「余計なことを言うな
お前が言った通り『お前が持っているIDカードを交換する』」
「…分かりました」
我孫子はポケットからIDカードを取り出すと房に手渡した
房に向かって不気味な笑みを浮かべる館山
「頼んだぞ房
俺達を買い取らなければ
お前のIDカードは
戻ってくることはない
いくらゲームで『勝者』になっても『承認B』を行わなければ第1ステージのタイムオーバーで死ぬことになる」
「ひいぃ!!」
「!」
何の変哲もない会話から
突然怯え出す房
「房さん!
しっかりするんだ!
僕と館山さんが仲間同士である以上房さんを信頼してゲームをクリアするしか方法が無いんです!」
我孫子は自分が持つ星を一つ房に渡した
「ぼっ僕を信用してくれて
あっありがとうございます!」
また違った雰囲気を漂わす房
その異様な振る舞いには特に反応する事なく館山は星を一つ房に手渡す
房は我孫子と館山に深々と頭を下げるとスタッフに星を一つ渡した
「星一つを頂きました
房様はルームの移動が可能です」
房は再度我孫子と館山に
お辞儀をすると第②ルームへと消えていった
シーーン
部屋に僅かな沈黙の時が流れる
我孫子は不安げな表情をしながら館山を声をかける
「…今までいろんな裏賭博やゲームをしてきましたが『他人に頼る』ゲームは今回が初めてです
正直な話僕は不安です」
縋るような視線を館山に向ける我孫子
その心中を察したかのように館山が喋り始める
「『勝者』が獲得賞金を使い『敗者』を買い取る
その際 保証としてIDカードを交換しておく方法は最も中立的な解決方法だ
この解決方法は信頼関係を探るうえでも有効な手段
房が思いつかなかった場合俺が提案しようとした解決策だ」
「…そうですか
それなら安心です」
「…だが
さっきも言った通り自分のIDカードを他人に渡す行為は絶対にしてはならない行為でもある」
「え?」
「IDカードの交換で
ハッキリ分かった
『房という参加者が
どんな奴か』って事がな」
「!?」
第2組目
【星(スター)】開始から
20分経過
第1組目で勝者となった香取が
部屋の中央で佇む
その香取のもとへスタッフが歩み寄る
「香取様
『契約書でご注文頂きました
ホットコーヒーでございます』」
ゆっくりとスタッフから
コーヒーを取る香取
「『ホットコーヒーを手渡した時点で香取様のIDカードから百万円の賞金を差し引かせてもらいます』
香取様の獲得賞金は
『1千3百万円』
となりました」
「コーヒー1杯百万円
ずいぶん高いコーヒーですね」
ズズ…
熱いコーヒーをゆっくりと啜る香取
すると
ガチャ
扉が静かに開く
「!」
扉から出てきた人物に
僅かな驚きを伺わせる香取
「…房か
結果的に我孫子さんと館山さんは
アナタに買い取りを
頼んだみたいですね」
扉から出てきたのは房だった
「…あるいは殺し合いをして
アナタが生き残ったか?
どちらにせよ
『我孫子さんも館山さんも大したことのないってことだ』」
ふてぶてしい態度で語る香取
その香取へゆっくりと
視線を向ける房
すると
「…ド低脳のくせして
俺に話しかけるな香取」
荒々しい房の口調を聞いて
笑みを浮かべる香取
「これは!『船橋』さん
でしたか?」
「香取ぃ!
今後その肥溜めみたいな汚ねぇ口で俺を船橋と呼んだらお前の口の中に俺の糞をぶち込んでやる!」
顔を赤らめ口から唾を飛ばし香取に罵声を浴びせる房
香取は房の罵声を笑顔で
受け流している
「…香取
何を余裕かましている?
木更津と市原はどうした?
木更津は馬鹿ではない
『契約書』を使って
アイツらを買い取る
話しになってるはずだ
俺は『駒』が必要だ
さっさと契約書を使って
アイツらを買い取れ!」
顔をしかめ香取に指示する房
すると
「…実はたった今温かいコーヒーを注文してしまって賞金が1千3百万円しかないのです」
「なに!?」
この場に似合わない不気味な笑みを浮かべ淡々と語る香取
「木更津さんと市原さんの
負債額は合計で
『1千4百万円』です
私では敗者になったあの二人を
買い取る事ができないのです」
「糞ガキィ!
てめぇはそれを知ったうえで
注文をしやがったのか?」
「…船橋さん
いや房さん
この先は私が木更津さんと市原さん以上の働きをしますよ」
「ふざけるなぁ!」
「アナタだって一人で
『勝者』になった
私達二人が『勝者』となって
【星】のゲームを終了する
これで問題は無い
と思いますけど?」
「鼻タレ小僧が
木更津がいないと随分調子に
乗るじゃねーか?
木更津はIDカードをお前と
交換していないのか?」
房の問いかけを聞きポケットからIDカードを取り出した香取
「このIDカードは
私のIDカードですよ
IDカードの交換という
初歩的な交渉方法にさえ
あの二人は気づかない
だから
木更津さんと市原さんは
役にも立たないと
私は言ったんです
役に立たないと分かっているあの二人をアナタが『駒』として使いたいのなら自分の獲得賞金で買い取るのが筋ではありませんか?」
「香取ぃ!
誰に物言いしてやがるんだ?」
「それともアナタは我孫子さんや館山さんとIDカードの交換をしてしまって二人を復活させないといけない状況になってしまっているのですか?」
房が手持ちのIDカードを
香取に見せる
「このIDカードは
我孫子のIDカードだ」
「フッ」
呆れたように鼻で笑う香取
しかし
「!?」
房は更に『もう一枚のIDカード』をポケットから取り出し香取に見せつける
すると
「このIDカードは
『俺のIDカード』だ」
表情が僅かに強張る香取
そんな香取の表情を嘲け笑うような笑顔を見せる房
「あの館山というスカした野郎は
木更津同様『理論家』で
『理屈』が全てだ
その凝り固まった頭の発想では
IDカードの交換が最大の保証だと
思い込んでいる
確かに理屈だと
最大の保証になりうる
だが
『スリ師の世界』では
『最大の保証になりうる
場所にこそつけ込む隙』が
存在すると考える
無能な奴らが集まるこのゲーム会場では参加者のIDカードなんて目を瞑っていたって盗む事が出来る
館山とかいう男も俺が
『IDカードを2枚所有しているとは考えてもいなかったようだ』」
「へぇ~
って事は?」
「『あの二人は復活する事なく
ゲームオーバーだ』」
「…大した事ないなぁ」
房の言葉を聞き静かに呟いた香取は緊張が解き放たれたように喋り出す
「それにしても
本当にあの4人が
『ドラゴンスレイヤー』の
メンバーだったのかなぁ」
「!!」
独り言のように喋り出した香取の発言に房が驚いたような反応を見せる
そして
香取のもとへと歩み寄る
すると
「香取ぃ!
『今誰がドラゴンスレイヤーの
メンバーだと言った!?』」
「アナタと一緒にゲームをした
我孫子さんと館山さん
そして
木更津さんと市原さんも
元ドラゴンスレイヤーの一員だ
それがどうかしたのか?」
怒鳴りつける房に対し
平静な口調で返答する香取
ドオォォン!
「!」
突然壁を蹴りあげる房
「香取ぃ!
適当なことをほざくんじゃねー!
あの糞どもが『十傑』だと
言ってやがるのか!?」
「じゅっけつ?」
「ドラゴンスレイヤーは
『十傑(じゅっけつ)』と
呼ばれる10名のメンバーで
構成されていた
『外来裏賭博撲滅委託業者』だ!
そんな十傑の存在も知らねー
ビチ糞のてめぇが
なんであの4人が
ドラゴンスレイヤーだったと
語りやがるんだぁ!?」
ポーーン
「!?」
「第2組目がゲームを
終了致しました」
「なんだと!?」
室内アナウンスが第2組目の
ゲーム終了を告げる
それと同時に声を張り上げた房
「ゲーム終了だとぉ!?
我孫子も館山も1時間後のタイムオーバーを
待つしかないはずだ!
時間はまだ
ゲーム開始から30分も
経っていない!」
ガチャ
「!!」
ゲーム会場の扉が
ゆっくりと開く
その扉から入ってきたのは
我孫子と館山
「どうした?
勝者のくせして随分と冴えない顔色をしてるじゃないか」
嘲けるような笑みを浮かべ
二人に話しかける館山
動じる事なく部屋に現れた我孫子と館山を房と香取はただ眺める事しかできなかった
TO BE
CONTINUED