今、正に出かけようとする親子。真ん中のお母さんは右手に籠とプラ容器2本、頭にはでっかい荷物を載せています。
 
彼女が振り返る娘も左手に2つほど籠を持っています。
 
そんな妹を心配そうに見ている右端の少年は、手前に黄色いプラスティック製の容器が覗いている色とりどりの籠、向こう側にはやっぱり荷物の入ったシンプルな竹籠を天秤棒にかけて担いでいます。この色とりどりの籠は、間近で見るとこんな感じ
 
こちらの親子は、私達がフィリピンはネグロス島の山村で住み込み調査をしていた最中、一週間ほどお世話になった山奥の家のお母さんと子供たち。
 
この村は私達が住んでいた山村から更に山道をのぼること1時間余りの山の上にあり、水道や電気、ガスからは完全に解放されています。
 
で、水は丁度、お母さんが右手に持っているような容器やいわゆるポリタンクなどを使って、自分の力に応じた量を毎朝、谷底から汲んできます。灯りはガラスの空き瓶に灯油を入れたランプで、火は集めてきた薪でおこします。
 
そんな暮らしの中、子供たちの使う文房具や課題にかかる費用(公立の場合、授業料は無料)、親子が履いているようなスマゴル(イロンゴ語でビーチサンダル)や衣類など、どうしても現金が必要になると、町に物を売りに出かけます。
 
町へは、国道まで1時間以上かけて徒歩でおりてから、バスやジプニー(ジープを改造した乗合自動車)に乗って30分。帰りは国道から上り坂なので、往復ざっと4時間はかかります。
 
さて、この日の商品はこちら(↓)。
 
 
お母さんがせっせと作ったティナパイ(=パン)です。こうして成形したものを、一斗缶と木炭で作ったかまどで焼きます。彼女は一斗缶を寝かせて使っていましたが、例えばこちらでは、一斗缶を立たせたままカマドを作る方法が紹介されています。
 
忙しそうにパンを作っているお母さんに、「これだけ売って、いくらくらい利益があるの?」と聞いてみると、お母さんは笑いながら、「そんなこと、計算したこともない。」。でも、きっと材料費をひいても、損にはなっていないはず。そうでなければ、次の材料が買えません。
 
このお母さん、私達より10歳ほど年長ですが、まだまだ元気にしておられます。ここに写っている子供たちも、今ではもうすっかりいい大人に。こうして町まで物を売りに行った時のことを覚えているでしょうか。そして、その時、分かりづらいイロンゴ語をあやつる妙な外国人が自分たちの家に住んでいたことも・・・(笑)。