先日車の中で感じた絶望感をまた思い出しそうになったので、
それ以上考えないようにした。
 
 
ノートをテーブルに戻し、アラームをセットして眠りにつく。
いつもは目をつむってもなかなか眠れないのだが・・・
今日は何故かほどよい疲れとさっき少しだけ飲んだアルコールのせいか
気持ち良く眠りの中に落ちていく。
 
 
眠りに落ちていく途中で「おーいここだよ~」と
という声が遠くから頭の中に響いてくる。
 
 
その声に誘われて僕はどんどん眠りの世界へ入り込んでいった。
 

 

 

 

 

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気がつくと僕は椅子に座っていた。
どうやら部屋の中みたいだ。
座っている僕の前にはビンテージ風のテーブルあり、
その上には見覚えのあるノートとてっぺんにマイクラのTNTのついてるボールペンが置かれていた。
 
 
視線を上げると、正面に黒板があった。緑色のあれ。
しばらくぼーっとその何も書いてない黒板を眺めていた。
部屋の中には僕ひとりで、あたりはしーんとしてる。
 
 
なんだか夕暮れの教室に一人いるみたいで
ちょっとさみしい気分になってきた。
 
 
周りを見回すと左手はガラス張りになっていて、ガラスをはさんだ花壇には色とりどりの花が咲いている。
花壇の先には芝生が広がって、その先には小高い丘が見える。丘の向こうは木々が立ち並んでいる。
 
 
右手は一面壁になっていて入り口らしき扉がある。僕と壁との間にはカウンターがあって、
カウンターの上にはドリンクバーが並んでいる。僕の好きなお菓子もかごに入れられて並んでいる。
 
 
ドリンクバーを見たら、さっきのさみしさは何処へやら、
うれしくなってきた。これ、飲んでいいのかな???食べちゃっていいかな???
 
 
誰もいないけど・・・お金払うのかな???
そんなことを思って居ると、突然ガラガラっと部屋のドアが開いた。
 
 
すると後ろから「きりーつ!」という声がした。
振り返るとそこにはいつのまにか、10人くらいの人がいてびっくりした。
みんなが「きりーつ」の声に合わせ一斉にたっていた。慌てて僕も立った。
 
 
いつの間にこんなに人が・・・。さっきまで何の気配もなかったのに・・・。
そこには大人だけじゃなくて子どもいて、年齢も性別も色んなひとがいた。
 
 
そしてみんなはドアの方に視線を向けている。僕もつられて視線を移すと・・・ドアから現れたのはネコだった。
見覚えがあるけど・・・そうだ・・・なんだっけ・・・金之助だ!
 

だんだんと前回の夢の世界の記憶が戻ってきた。

 

 
そうだ、そうだ、あれは僕の10年後、未来の僕の「意識」でネコの姿をしてるけど・・・
正確には「僕」なんだった。
 
 
今日の金之助は金八先生風の服を着ている。ネクタイもしめている。
どう見ても動きにくそうにしている。
ネコの二足歩行にも無理があるけど、さらにズボンをはいてるから・・・
ちょこちょこちょこって歩く姿がおかしくて
おもわず笑いそうになってしまって・・・
「れい」の号令で下を向いたときに隠れて笑った。
 
 
 
顔を上げると、笑っているのは見通し!っていう表情で
金之助が僕を見ている。
 
 
「ちゃくせき」の号令でまたみんなが一斉に座った。
僕も座った。
 
 
なんだか学校のようだとも思ったけど、
大人も子どももいるし、みんなが座っている椅子も机も、
丸い椅子だったり、ソファみたいなふかふかの椅子だったり、
机も大理石のテーブルみたいだったり、こたつだったり・・・
色々でなんだか面白い。
 
 
 
金之助が言った。
「はーい、みなさん転校生がいるので紹介します。じゃ君、前に出てきて。」
と僕を手招きする。
 
 
僕はちょっぴり緊張しながら黒板の前にでて名前を言って、ぺこりとお辞儀をした。
パチパチパチとみんなが一斉に拍手をしてくれた。
元々人見知りな性格の僕はみんなの視線がちょっと怖い。
みんなと視線が合わないように下を向きながら自分の席に座った。
 
 
座った瞬間、また辺りがしーんとなり、さっきの静けさが戻ってきた。
 
 
「どう?緊張した?」金之助が笑いながら僕に話しかけてきた。
振り向くとさっきまでいた人たちがいなくなっていた。
机もいすも僕以外のものはきれいさっぱり消えていた。
部屋には僕と金之助しかいない。
 
 
僕が驚いた表情で金之助を見ると、
「こういうのってさ、やっぱり雰囲気大切じゃん!」
「だからさ、ちょっと学校っぽくしてみたってわけ。楽しんでもらえた?」
金之助はなんだかうれしそうに僕をみている。
 
 
金之助は僕の「未来の意識」だから、僕のことは何でも「知っている」はず。
だから僕が緊張することも、みんなの視線が怖いのも知ってる・・・
「あえて」こんな場面をつくっているかのようだった。
 
 
僕は少し強がって「うん、楽しめたよ」と心にもないことを言った。
あっ、この強がりさえも金之助には「お見通し」なのだろう・・・
なんだか目の前にいるのが本当は「僕自身」ということにまだ全然なれない。
 
 
口元に微笑みを残しながら金之助は言った。
「さあ、今日から本格的に勉強してもらうからね。」
「ちなみに前回ノートに書いたこと覚えてる?」
 
 
 
ノートに???何を書いたのかだって???
まったく記憶にない・・・・
 
 
ぽかーんとしている僕の顔を見て金之助は「やっぱり」といった表情で
「やっぱりね・・・慣れるまではしょうが無いね。」
「そこのノート開いて見て。書いてあるから。」
 
 
 
テーブルに置かれたノートを開くと、「注意事項」と確かに僕の字で書いてある。
文字を目で追ううちに、だんだんと記憶が戻ってくる。
 
 
「思い出した?」金之助の言葉に僕は大きくうなずいた。
 
 
「それはよかった。」
「じゃ今日は次に進むね。今日は『感情』について君に伝える。君が今向き合うべきテーマだ。」
金之助はまるで先生のように、黒板の前を左右に行ったり来たりしながら話す。
 
 
 
「君、今、感情の扱いにすごく困っているでしょ。僕の過去でもあるからよく分かる。」
 
 
そう、まさに僕は今、「感情」ってものが分からなくて困っていた。
特に子どもに対する「怒り」が湧いてきて、どうしようもないことがある。
「感情なんて感じなければいいのに・・・」とさえ最近は思っていた。
悲しくなったり、不安になったり、怒りが沸いてきたり、、、いちいち感じているから疲れるんだ、
感情を感じずにたんたんと目の前のことをただこなすことができたら、どんなに楽だろう・・・、
そんなことを考えていた。
 
 
特に「怒り」の感情にはほとほと参っていた。自分が自分でなくなるほどの激しい怒りが沸いてくる。
僕はもともと「怒らない」性格だった。それが子育てが始まってからだ。
子どもの些細な言動がカチンときて、子どもに怒りを向ける日々・・・。
だから子どもとの関係もうまくいかない。
 
 
自分でも自分じゃないみたいで、本当にどうしていいか分からなかった。
本も読んだ。瞬時に反応しないで何秒か我慢すれば収まる・・・そんな風に書いてあったけど、
僕の怒りはその数秒の我慢さえできなかった。こんな風になったのは何故だろう?
自分でも自分がよく分からなかった。
 
 
 
「僕は今、自分の感情が自分でもよく分からないんだ・・・。」
「それにいつも頭の中はぐちゃぐちゃで、仕事の不安だったり、子どもの将来のこと心配したり・・・、
夜も考えすぎて眠れなくなることもあるし、、、」
「頭の中も心の中も、、、毛糸の糸が絡まったみたいにぐちゃっとしてて自分でもどうしていいか分からない。」
僕は正直に今の気持ちを言った。
 
 
金之助は僕の目を見ながら
「うん、うん、」と聴いてくれた。
 
 
「君の気持ちよく分かるよ。今一番しんどいよね。」
 
 
そうか、金之助は僕の未来だから分かって当然と言えば当然なのだけど・・・
こんな風に誰かに聴いてもらったことがなかったので、僕はなんだか安心した。
 
 
 
「大丈夫。今はつらいかもしれないけど、ずっとは続かないからね。」
「君はこの状況から抜け出すことができるから。今日はその方法を伝えるからね。」
 
 
その金之助の言葉に僕は一筋の光を感じた。なんだかちょっと泣きそうになった。
 
 
金之助は静かに言った。
「君、今さ、『怒り』を無理矢理押さえ込もうとしてるでしょ。」
「怒っちゃダメだ、怒りをコントロールしなきゃ、と思ってるでしょ。」
 
 
その通りだった。僕はいつも「今日こそは怒らないぞ」と自分に言い聞かせていた。
それでもどうしても「怒り」が湧いてくる。そして我慢できずに、子どもを感情に任せて怒ってしまう。
そんな自分をとてもはずかしく思っていたし、「また怒ってしまった」という罪悪感でいつもいっぱいだった。
 
 
「まずね、大切なことはね、怒りを無理矢理抑えようとしないことなんだ。」
「怒りは悪者じゃないからね。ちゃんと出してあげていいんだよ。」
 
 
「怒りは悪者じゃない」金之助のその言葉は衝撃的だった。
僕はずっと「怒ってはいけない」と思ってきた。だから職場でもなんでも怒るってなかった。
ただ、子育てをはじめてから、、、なぜか子どもに対してだけは怒ってしまう。
 
 
 
僕の心の中を読んでいるかのように金之助は言った。
「君が子どもたちに怒ってしまうのは、子どもたちの前だと素直になれるからだよ。」
「君の子どもたちは君を自由にしてくれる存在なんだ。」
 
 
 
「自由にしてくれる存在?僕を困らせる存在としか思えないけど・・・」
思わず本音が出てきた。僕をわざと怒らせよう、困らせようとしている、としか思えない。
 
 
 
金之助は「ふふ」と笑いながら「今はね、そうとしか思えない時期だよね。」
「大丈夫、後で分かる時がくるから。」そう言ってくるりと後ろを向き、
今度は黒板に何かを書き始めた。
 
 
 
書きながら金之助は
「感情はね、僕たち人間にとってとても大切な役割を持っている。みんな本当の役割を知らないんだ。」
「だって学校では教えてくれないものね。確かに昔の僕、そう今の君、は感情なんてなければいいのに、、、と思っていた。」
「感情さえ感じなければ苦しむこともないし、悩むこともない、そう思っていた。でもそれじゃロボットと一緒になっちゃうでしょ。僕らはロボットじゃない。」
 
 
 
黒板を見ると、そこには一本のまっすぐな線が書かれており、その上に波線が描かれている。
まるで心電図のような絵だ。
 
 
「感情はね、この波線のようなものなんだ。上がったり下がったりする。」
「上がっているところが、楽しい、うれしい、などの『快』の感情とすると、
下がっているとこは悲しい、怒りなどの『不快』の感情なんだ。」
「快も不快も僕らにとってはどちらも大切なものなんだよね。だから快だとよくて不快だと悪いってことじゃない。」
「だって不快、この下に下がってる部分がなかったら、上に上がっていく部分もないってことだからさ。」
「怒りを抑えるってことは、この下に下がってる部分を押さえ込んじゃうわけだから、上に登っていく部分も同時に押さえ込んでいるってことになる。」
「で、抑えこむことをずっと続けるとどうなるかっていうと・・・」
「何も感じなくなる。」
 
 
金之助の言うことは今の僕にはまだ理解しきれない所もあるが、
「何も感じなくなる。」って言葉はずしんと胸に響いた。
ちょっと怖い感じがした。
 
 
 
「だからね、快も不快もちゃーんと感じてあげないとね。下に行く波も上に行く波も素直に感じてあげると
魂が振動するんだ。この振動が僕らの身体を動かしてくれる。行動力の源になる。」
「何も感じない人間になっちゃだめだよ。」「感情を殺しちゃだめだよ。」
 
 
 
僕は今まで感情なんて感じなければ、どんなに楽かって思ってたけど・・・
それは金之助が言う「何も感じない人間」ってことなんだ。
何も感じずにただ淡々と仕事や家事・育児をこなせれば悩むことも苦しむこともなくなると、
そう思っていたけれど・・・
金之助の言うようにそれじゃロボットとまるで同じじゃないか・・・
 
 
振り返れば僕は「感情を殺して生きてきた」ような気がする。
怒っていても怒ってない振りをして、悲しくても悲しみを感じない振りをして生きてきた。
「泣くんじゃない」子どもの頃言われていたことを思い出した。
「不快」の感情は出してはいけない・・・そう思ってきた。
 
 
金之助は言った。
「今日から『感情』をちゃんと感じる練習をしてほしい」
 
 
 
「どうすればいいの???」
 
 
 
「それは・・・」
 
 
 
 
 
次回へ続く。
 
 

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