今年に入って、とんと音楽ネタが書けなくなってしまいました。
それは、どうにも、
ある曲のことが気にかかって仕方がないから……
その曲とは、
亡き友人から宿題に出されていた、
ベートーベンのピアノソナタ。
その記事はこちらへ完璧な青は哀しい。
今年に入ってから、どうにも気になって、
分厚い楽譜をごそごそ出し、
譜面台に置いて、音を出してみるのですが……。
……わからない
甘やかに湧きあがるも、
すぐに流れ落ちる水のように始まる一楽章。
決然と、しかし苦しみを秘めた二楽章。
形をいくつにも替えつつ、「遥かなる恋人」の旋律を、
永遠に愛おしむかのように、
終わりを悔やむかのように繰り返す三楽章。
一つ一つが理解できても、
……いえ、一つ一つの掘り下げも危うく、
三つを繋げた時の流れが、
テンポ感が、
心の動きが更にまとまらない……。
この曲は、マクシリミアーネ・ブレンターノに献呈されました。
うら若い女性ですが、恋の相手ではありません。
この曲を贈るにあたって、ベートーベンは、
マクシリミアーネに次のような手紙を書いています
献呈!!!
これはどこにでもあるようなありふれた献呈ではありません。
この地上の高貴な人々を結びつけ、
時の流れにも滅びることのない精神、
その精神があなたに語り掛け、
幼き日のあなたを眼前に彷彿とさせるのです。
同じように、あなたのよきご両親、
すばらしく心豊かなお母様、
いつも我が子の幸福を願っている真に善良で高潔な特性を備えたお父様を、
目の前に思い浮かべています……。
この「真に善良で高潔な特性を備えたお父様」の奥方、
「すばらしく心豊かなお母様」である、
アントニア・ブレンターノこそが、
ベートーベンの愛し、結婚まで考えた、
「遥かなる恋人」でした。
この手紙に深く込められた意味がなんなのか……。
ベートーベンはどんな思いを込めたのか……。
その答えが出せないまま、
ぼんやりと譜面台の楽譜を眺めたまま、
この曲を宿題にくれた友人の亡くなった、
毎年胸に疼きを起こす3月が、
今年もまた、
半分を過ぎてしまいました………。