暑い。暑すぎる。
朝日を遮るタープを買いにいこう、その前にクリーニング取りにいこう、
いやいやそしたらついでにソフトクリームでも食べない?暑いしさ。
いいねいいねー となり、農協系列の直売所に向かう。
染み渡る冷たさと栄養(という名の糖分と脂肪)。
体温と同じかそれ以上と思しき熱風と西日の中、ソフトクリームはそりゃあ速いスピードで溶けてゆく。
追いかけるようにスプーンですくい、口に運んでいると流れてきたのはユーミン
Carry on
そう、この直売所、なぜかはわからないが、ユーミン流れてる率が高いのだ。
西日に照らされながらソフトクリーム食べてるBGMがユーミンってエモいよね〜
などと言いながら、しまった、溶けるスピード追いかけてたら意味もなくコーンだけが残っちゃったよ、と口の中の水分をやたらと奪うコーンを黙々と食す。
ちょうど親子連れが同じようにソフトクリームを手に西日な席に腰掛けるところだった。
たぶん、あの子が食べるスピードよりも、溶けるスピードのほうが速いだろうなー
なんて思いながら、再び車に向かう。
むかしむかーしのことを思い出す。
隅田川の花火大会に行った時のことだ。
めずらしく、まことにめずらしく、われわれ親子は会社上がりの父親と駅で待ち合わせ、
どこかの食堂?でなにかを食べ、花火を見にいくことになった。
ああ、楽しそうだ。じつに楽しそうだ。文字を読む限りは。
しかし、おいどんはとにかく気を遣う父親を伴う外出は苦手だった。
もう全然楽しめないのだ。
それでも子どもだ。
やっぱり少しは楽しいんじゃないかと、期待してみたりもするのだが、
ことごとく、さりげなく、いやどうしようもなく、楽しくない終わり方をするのでごわすのよ。
扇風機くらいしかなかった当時、夏の人混みな食堂で運ばれてきたのはソフトクリームだった。その時点で、あんまりしっかりしてなかったソフトクリーム。
どうしてソフトクリームだったのかはわからない。おいどん、そんなにソフトクリーム好きじゃなかったし。おそらく年下のきょうだいが食べたいと言ったか、母があんたたちはソフトクリームでいいでしょ、って勝手に注文したんではないかと思う。
右手にソフトクリームをもち、腰掛けている座席がテーブルから離れていることが急に気になり、座り直そうとしたその時、コーンの上に乗っていた白いソフトクリームだけが、
どろん、とテーブルの上に落ちてしまったのだ。
軽蔑したような表情でたった一言「なにやってんの?」と呟いた父親
かばってくれない母親
テーブルを汚してしまったのに、拭くものさえないやり場のなさ
などなど、ひたすらにみじめな白っぽいテーブルを思い出す。
花火のことは覚えていない。夜と人混みだけは覚えている。
この日、父と落ち合う前、黄色い縁の子ども用のサングラスをなぜか母親が買ってくれた。
ポシェットにそれを入れて花火見物をしていたんだと思う。が、やっぱり子どもだ。おいどん、大事なはずのそのポシェットを座っていた場所に置き忘れていたんだろう。人混みの中、誰かがポシェットを持って追いかけてきてくれた。男だったか女だったか、どれくらいの年齢だったかは覚えていない。その手元だけが明るく光って思い出されるのだ。
子どもを楽しませようと思ってもぜんぜんうまくいかない父親、守ってくれない母親、緊張する子ども、そう、ここには大人はいないのだ。必死に何かをやろうと思っている子どもみたいな人たちと、子どもだけがいて、幸せになろうと方向も定まらないまま、ただもがいていたんだろう。
ポシェットを持って追いかけてきてくれた誰かのおかげで、しかしこの思い出は
今もとてもあったかい思い出として思い出されるのだ。
ありがとう、そのときの誰か。
って、昔話ばかりしていると年寄りみたいだから、これくらいにしておこう。
Carry onが爆音で流れる某農協にて、車のドアをあけつつ、
「あのね、ソフトクリームを食べるときはね、重心が大事、重心の維持が大事なんでごわすよ
そうしないと上だけがズルッといっちゃうから、それでショボーンってなっちゃうから、これが一番大事、知っとった?」
限りなく上沼恵美子な感じで力説するふぉんだんの夕暮れ。