昨日、丸27年も住んだマンションを退去した。近々取り壊しになるからだ。

 引っ越しは休みの日を利用して1ヶ月余りかけて自力でおこなった。業者に頼もうにも一気に荷物をまとめられる量ではなかったからだ。

 粗大ごみの量も半端なかった。鉄製の長材も自力で切った。ごみ処理業者に持ち込んでも引取料として1万円もかかると言われたからだ。なぜか所持しているものすごい騒音を出す電動工具を使わずとも気合いを入れれば金鋸でも切ることができた。180センチ以内にしたことで400円で済んだ。結局トータル2万円ほど、粗大ごみ処理券を介して渋谷区に納めたことになる。

 一番大変だったのはイケアの本棚だ。イケアのサイズは日本サイズではない。エレベーターに乗せるのすらものすごく大変な作業だった。ガラス扉のせいで重量もある。エレベーターの扉よりも高い本棚だったので寝かせて立ててを繰り返した。バラして出すことも考えたが、バラすと180センチを超える板が何枚も出る。騒音を考慮してまんまで出したのだが、自力で切ったほうが楽だったのかもしれない。

 舞台でいうところの搬入搬出を僕は何度も繰り返した。普段はほとんど乗らない車であったが、買ってから今までで一番活躍したのではなかろうか。結局何往復したのだろう。すり抜けるバイクや急な右折車両による車線変更がとっても大変な国道246号線もすっかり慣れた。急がず焦らずゆずりの精神で真ん中の車線を走ればいい、結果そうなった。

 27年前に買った押し入れの奥で埃をかぶっていた台車も大活躍した。宅配業者さんがゴロゴロ押している台車だ。搬出で一番大変だったのは冷蔵庫、搬入は洗濯機だった。冷蔵庫はリサイクルの引き取りのためだけに新居に運んだのだが、ファミリーが使うようなでっかいブツだったので台車の使えない場所はとにかく重い。新たな冷蔵庫を買った電器屋さんは、本当に運べるのと何度も疑った。乗用車に乗るはずがないと思っていたからだ。見かけは小さい車だが、意外に載る。会社の営業車としてたくさん走っているのもわかる気がする。僕はかっこいいと思って買ったステーションワゴンだったが、ほとんどの人はダサいバンと思いがちな車だ。舞台の小道具などを運ぶためでもあったが今更ながらナイスセレクトだったと思う。

 洗濯機は僕の中では買ったばかりだったので新居に運び入れた。洗濯機置き場は室内の二階だ。狭くて急な階段を上らなくてならない。冷蔵庫を二階に運び入れた業者さんを見習いつつ、なんとか運び入れることができた。

 昨日は、空になった部屋にじいっと佇み、いろんな箇所を目に焼きつけた。こんなに広かったのだ、という思いとともに、思い出が溢れてくるというよりも、ただただ寂しさが募ってきた。

 心の中でひと部屋ひと部屋何度も呟いたが、それだけでは収まらず、ちゃんと声に出して「長い間お世話になりました。ありがとうございました」と頭を下げて僕は部屋を去った。