僕の車は買ってからもう17年も経つ。なのに20,000kmしか乗っていないのでエンジンは変わらず調子がいい。べつに大切に大事に乗っているわけでない。舞台公演の荷物を運ぶときくらいしか活躍の場がないからである。

 正直いらないと言えばいらない。レンタカーを使用したほうがずっと経済的であろう。

 そう思いながらも、なんとなく持ち続けている僕の車は、はっきり言って小汚い。キレイに乗ってはいるが古くなってきたので小汚い、とかそういうのではない。キレイにしていないから小汚いのである。いや、小汚いでは済まされない。はっきり言ってとっても汚い。雨を洗車としているからだ。

 樹液でベタベタになろうとも、ハトの糞が付こうとも、とにかく僕は雨を待つ。それでも2年に一回、洗車しなくては、と思うときがある。車検のときである。

 当然ながら車検に出せば綺麗に洗車されて戻ってはくる。だが、それが忍びないのである。多分「きったねぇなぁ」とかブツブツ言いながら拭き取るのだと思う。それがやるせないのである。

 そこで僕は考えた。安いスピード洗車で適当に軽く洗車をしておけば、忍びなさも半減するのではなかろか、と。

 ネットで検索すると、いつも物凄く並んでいるところがとにかく安かった。やはりあそこか。並んでまでの洗車に必要性を感じていない僕は入ったことがない。だが、警察署からの再三の注意により、道路には並べないことになったという。ってことは運が良ければ入れる!

 僕は、この時間は空いているだろう、と勝手な予測を立てて行ってみた。運が良かった。

 僕以外の車はさすが東京と言わんばかりの高級車ばかりだった。そして、僕からしてみれば洗車する必要がない、という車ばかりだった。どう見てもピカピカの車もあった。多分その人の家は塵ひとつ落ちていないのだろう。

 僕は待合室で、無料をいいことに昆布茶やスポーツドリンクを必要以上に飲んで洗車の上がりを待っていた。他の車の拭き取りはどんどん終わって呼ばれていく。もともと大して汚れていないのだから当然だ。

 僕の車は……一向に終わらない。多分、流れ作業の最後を任された青年はこびりついた水垢までしっかり拭き取っているのだろう。僕はいたたまれない気持ちになり、呼ばれる前に青年のもとへ駆け寄った。

「あの、もう十分です。妥協してくれて結構です。どの車よりもキレイになったと思います」

 青年は嫌な顔ひとつ見せず「次来た時は1000円かかりますけど高圧洗浄をプラスしたらもっとキレイになりますよ」と爽やかに言った。

 1000円プラスせずとも十二分にキレイだった。ここ10年くらいで一番キレイになったのではなかろうか。

 安いスピード洗車は適当に軽く洗車をするところではなかった。青年だけでなく、きっとここの従業員みんなそうなのであろう。だから超高級車の人までこぞってここに来るのだろう……車も心もピカピカになったけど、僕の車がより小さく見える洗車場でもあった。