毎月ではありませんが、月謝を貰う日は、帰る前に両親と面談しました。
父親の院長に勉強の進み具合を訊かれた。
「そうですね。初めの頃は、イマイチ勉強に身が入らないところがありましたが、今は質問をしますし、だいぶ良くなりました」
母親の副院長は長男に悩みごとがあるか、否かを気にしていました。
「純平、医学部受験について、先生に何か、言ってますか?」
「教え始めた頃、ご両親に言われるままに医学部を受験することに悩んでいましたね。これを先に解決しないと、教えても効果はあまりないと思いました」
院長が身を乗り出して「それで?」と訊いた。
「ほかにやりたいことがあるの?と訊いてみました」
副院長が「それで?」と訊いた。
「でも別にやりたいことは無かったですね。医者は嫌いかと訊くと、そう嫌いでもないと言いました」
院長が安心したように「そうですか」と言いました。
「両親が医者なんて、君は恵まれた環境に生まれた。東大大学院生といっても、博士になれる保証も大学の先生になれる保証もない、大学の先生になっても収入は大したことないよ。先が見えないので、好きな女の子と付き合ってもプロポーズもできない。君は恵まれた環境を最大限に活かすのがいいよ、と言いました」
副院長が「それで、純平、納得したのかしら」と言った。
「親に言われたから受験するのではなく、恵まれた環境を最大限に活かすために受験すると考えようと言いました。それから医学部受験について悩まないようです」
院長が「先生、実にいいアドバイス、してくれました」と言った。
副院長が「共学校ですけど、好きな子、いるのかしら」と訊いた。
「いるみたいです。でも、その子には彼氏がいると言ってました」
「そうなの」
「はい。僕の失敗談を踏まえて、決まった彼氏がいる女を口説くのは難しいと話しました。純平君は割り込んでまで、口説くタイプじゃないと思います。そこまで積極的じゃないですね」
「私たちには話さないことも先生に話すのね」
「僕が戸惑うような質問をされたこともありますよ」
「どんなことかしら?」
「先生はオナニーしますか、みたいなことですね」
「まあ、そんなことを訊いたの。それで先生は何て」
「彼女がいない時期もあったし、いても毎日会うわけじゃない。男は溜まると、適当に抜くというか、出さないといけないだろう。自然なことで悪いことじゃないよと言いました」
院長が「純平が私に訊くことは無いと思うけれど、即座にそう答えられるのに感心しました」と言った。
「純平君は、僕に話すことでモヤモヤしてたモノが消えるのだと思います。でも僕から聞いたとは彼に絶対に言わないで下さい。純平君が何でも話してくれなくなりますから」
副院長が「分かりました。十分に気をつけますので、先生が私たちに伝えておいた方が良いと思うことだけを教えて下さい」
この日に面談で、二人の絶大な信頼を得られたように思います。
