今日は僕が中学1年生の夏休みに体験した、部活の先輩しゅうさんとの想い出話

(しゅうさんの異常さについては、日記③をご覧ください)

 

僕の中学1年生の夏休みは、部活三昧の日々だった。3年生が最後の大会で惜しくも県大会優勝を逃したこともあり、2年生の代こそはと練習に打ち込んだ。僕は少しばかり野球がうまかったため、入部時からしゅうさんというエースの先輩に付きっきりで指導してもらえる権利を監督から与えられていた。皆は凄く羨ましがっていた。

 

しかし実際は指導など、ほとんど受けたことはなかった。実際は意味の分からない指令ばかり受けていた。鶉(うずら)の孵化失敗報告(日記③)をしてから約2週間後の6月中旬、2つの指令をしゅうさんから受けた。指令内容は「10円玉をとにかく集めまくること」と「家庭科で作るシャツをとにかく奇抜にすること」だった。もちろん僕には意味が分からなかった。

 

まず「10円玉をとにかく集めまくること」は言葉通りだった。この頃には多少しゅうさんとも打ち解けられていたため、目的を聞くことは可能だった。ただ僕も、中学入学2ヵ月間でしゅうさんの異常さに毒され始めていたのだろう。意図を聞いた所で理解出来ない事が容易に想像できたため、敢えて指令については何も聞かなかった。僕は気づけば夏休みの終わりに差し迫った8月22日までの約70日間、10円玉をほぼ毎日納め続けた。僕が納めた合計金額は、計3,400円だった。枚数にして340枚だ。しかし、テレビを見ながらあられを食べる事しか趣味がないサラリーマンの父を持った僕にとって、70日で計3,400円を譲渡したことは、金銭的にそれほど痛手ではなかった。

 

もう1つの指令である「家庭科で作るシャツをとにかく奇抜にすること」の方は少し嫌だった。僕達の中学校には、1年生の7月に家庭科の授業でTシャツを作るという恒例行事があった。そのTシャツをとにかく奇抜にしてこい、というのが指令だったのだ。僕はこれも理由を聞かずに遂行し、どどめ色のシャツを完成させた。

(シャツのイメージ)

 

シャツ作りのテーマは、「地球温暖化 対策」だった。僕は席が隣だったクラスのマドンナまどかちゃんと、家庭科の先生2人から一言一句同じ、「ふぉまたろう君、地球温暖化って意味分かってる?」という言葉を投げかけられた。まどかちゃんから浴びた生ゴミを見るかのような見下した視線は今でも忘れられない。そしてしゅうさんに完成したシャツを見せると、今までに見たことがない怪訝な顔で「きも」と一言吐露した。そして続けて、「まぁ良いでしょう。これ貰って良い?」と言われた。僕はなぜか拒んだ。しかし抵抗虚しくしゅうさんはカバンの中にどどめ色のシャツをしまい込んだ。

 

その日は珍しく、しゅうさんが「一緒に帰るぞ」と誘ってくれた。7月の頭頃だっただろうか。そして帰り道、しゅうさんオススメのタコ焼き屋に寄った。そこのおばちゃん店主はお世辞にも可愛いとは言えない50歳くらいの方で、店の佇まいや内装も褒められたものではなかった。総じて何かがダサかったのだ。ただしゅうさんは行きつけらしく、1時間程談笑しながら滞在させてもらった。もちろん全額お金は僕が払った。

 

そして話は8月22日まで飛ぶ。最後に10円を納めた日だ。その日の部活終わり、「明日13時に市民会館集合な。」と僕にしゅうさんは言った。僕はその日の帰り道、市民会館に立ち寄り明日何があるのか調べた。すると張り紙には、『8月23日13時~18時 フリーマーケット』と書いてあったのだ。僕は手伝いとして呼ばれたのだ。

 

当日僕は12時に会場入りした。もう既に会場の準備は完成しており、しゅうさんのスペースも完成されていた。

 

(会場イメージ)

 

しゅうさんのブースに駆け寄ると、「おう!」と優しく挨拶してくれた。しゅうさんが出品しているものはほとんが衣類だった。しゅうさんは服が大好きだったため、要らない服をいっぱい持って来ていた。「意外と普通だな」と僕は思った。しゅうさんなら、すごく変な物を出品するんだろうと思っていたからだ。そして一通りブースを見渡すと、何やら端の方に一際光沢を放つ丸いものを見つけた。ちょうど僕の角度からは、会場の照明と丸い物体の輝きが相まって正体が良く分からない。ただ本当に✨キラキラ✨していたのだ。人生で見たどんなものよりも✨キラキラ✨していた。そして丸い物体の前まで行き正体を確認した。そこには、見たことないくらい✨キラキラ✨した10円玉が

 

「30円」と表示され販売されていたのだ。。。

 

さすがだと思った。圧巻だった。ただ忘れてはいけない。全て僕の10円なのだ。そしていざ会場がオープンすると、その10円は飛ぶように30円で売れた。みんな話のネタに買っていってくれるのだ。そしてついでに、服も売りつけるのがしゅうさんの手口だ。お客さんの中には、あのダサいタコ焼き屋のおばちゃん店主もいた。もちろんその日も可愛くはなかった。そして閉館1時間前の17時には10円玉340枚を全て30円で売り切ったのだ。服も数着を残し、段ボール4箱分ほど売った。僕は10円を担当していたので、服が何着売れたのかは把握していなかった。しかし合計売上金額を見て僕は驚いた。なんと中学2年生が、たった5時間で82,000円もの売り上げをあげたのだ。手伝った僕も凄く興奮した。そしてしゅうさんは、手伝ってくれたからと僕に2,000円をくれた。2,000-3,400(10円×340枚)=-1,400円 1,400円負けだ。

 

そして月日が流れ1年後、しゅうさんは部活を引退した。しゅうさんと絡む事が無くなった僕は、少し寂しい2年目の夏休みを送っていた。そして寂しさからか頻繁に、しゅうさんに連れて行ってもらった可愛くないおばちゃん店主のタコ焼き屋に立ち寄った。相変わらず、お店の佇まいや内装もダサかった。そしてある日、僕は一重の目を丸くした。可愛くないおばちゃん店主が、どどめ色のシャツを着ていたのだ。

(シャツのイメージ)

 

僕は可愛くないおばちゃん店主に聞いた。「それ誰にもらったん!?」と。可愛くないおばちゃん店主はこう言った。「去年のフリーマーケットでしゅうさんから2,500円で買ったよ」と。

 

-1,400-2,500=-3,900 僕は3,900円負けた気分になった。