湾岸戦争が勃発して、モスクもミナレットも破壊されてしまったが、そんな事態が起きるなんて誰もが予想さえしていなかった時、何故か私は直感的に「今行かなければ…」と思う。


夫は「3人の子供がいるのに何のためそんな危険な国へ行くの?」


夫の友人は「要らん女房なら行かすが」と言う。



自分でも解らない。



そうして、海外に飛び出す様な旅を続けるうち、必ずと言って良いほどアンティークの本物、逸品と出逢うチャンスに恵まれる。



戦争や紛争の場面が日本のTV画像に映し出されるが、私の体験では街の中は台風の目の様に静かな日常がある。


危ないのは国境を超える時。

トルコ国境近くで、なんとトルコ軍の物々しい戦車隊列と遭遇。

兵隊は乗っていたバスに乗り込み強制的に荷物検査をする。


カメラもフィルムも没収された。

言葉も解らないので、尋問こそ無かったものの全て軍事優先とあって、戦車12台が通り過ぎるのを暑苦しいバスの中で待つ事6時間。



ようやく動き出したバスに更に揺られて6時間後、首都アンカラに到着した。



宿捜しがてら街を歩く。

ふと立ち止まった。

ガラクタの山の中から私に呼びかける懐中時計。


手にとって見れば、文字盤の上に記されたアラビア文字が気にかかる。


裏側の二重の蓋を開けると、紛れもない金で装飾されたロレックス。




「アラビアのロレンス」ならぬ「アラビアのロレックス」ではないか!




売っているオジサンにとってはどうやら価値のない二束三文の物の様だが、私にとっては貴重な逸品。


値切り倒してマイ・コレクションに加えた。

だが、これは10年後「どうしても欲しい!」と言うマニアに拝み倒されて泣く泣く譲ってしまった。



思い出深くもあり今でも「惜しい!」


つづく…