最近のマスコミ報道を見ていると、日本には急性期病床が70万床余りあるのに、その4%しかコロナに使われていない、という議論が目立つ。

全く病院機構を理解していないのか、それとも他に意図があるのか分からないが、これは全くの的外れな議論である。

厚労省も明確には定義していないようだが、基本的に急性期病床(一部の高度急性期病床も含む)は、患者7人に対し医療従事者1名の配置をする「7:1」が提供出来る病床を言う。

厚労省のホームページでは、一部の急性期病床は10:1(患者10人に対して医療従事者1人)や15:1の配置でも急性期病床と呼んでいるので、そもそもが明確ではない。

仮に7:1だけを急性期病床と呼ぶとして、それでも7:1である。

コロナ患者を診るのに、一体何人の医療従事者が必要かマスコミは理解していないのか?

7:1の病床でコロナ患者を受け入れられるのか?

急性期病床で直ちにコロナ患者を受け入れられるわけではないのだ。

但し、昨今問題になっている自宅待機の患者さんを収容する事は可能だし、そうしていれば自宅で容体急変さて亡くなる事もなかったかも知れない。

高度急性期病床のひとつである集中治療室(ICU)は2:1の配置が必要である。

本来マスコミが指摘すべきは、このICUの不足だ。

日本のICUは6,000床弱。

アメリカの7分の1、ドイツの6分の1、イタリアやスペインの半分以下と言われている。

ちなみに欧米のICUは1:1以上が必要とされる国がほとんどなので、日本の2倍の医療従事者が必要になる。

日本はこの医療従事者の不足も問題なのである。

ICUでも重症のコロナ患者を受け入れるには人手が足りない。

ICUの全ての患者に人工呼吸器を装着出来るわけではないし、ましてやECMOが病床数分あるはずもない。

そもそも急性期病床にもICUにも既に患者さんがいる。

この人達はどうするんだ?

コロナ患者を受け入れるには、例えばウイルスを病棟の外に出さないための陰圧装置が必要かも知れないし、他の患者さんと接触しないような動線が必要だ。

コロナ病棟の医療従事者は、他の病棟の患者さんとの接触を極力避ける方策も必要になる。

一部の病院では、敷地内にコロナ専用病棟を設け、他の診療科と完全に分けている所もあるが、全ての病院にそれが出来るはずもなく、政府からの補助もない(神奈川県では一部補助が出た。最近になって、ようやく政府はコロナ病床を増やした病院に補助を出すようになったが、病床ではなく病棟を建設しなければほとんど意味がない)。

マスコミ報道にある急性期病床数は何の意味も持たないし、議論するならせめてICU数であろう。

しかし、実際の一番の問題は感染症病棟の不足である。

2009年の鳥インフルエンザの大流行の際にも日本の感染症病棟の不足が問題視され、しかし政府は何の対策も取らず、このコロナ禍にその経験が活かされる事もなかった。

感染症病棟は他の病棟や外界と隔離されるので、今回のコロナにも絶対的に有効であったはずだ。

それを政府が理解せず、せっかくの経験を活かさなかった事が、このコロナの感染拡大を招いたと言って良い。

日本の急性期病床数が世界各国に比べて多いのは事実だし、これは減らして行くべきだが、その一方で「かかりつけ医(ホームドクター)」の充実など、その前に整備しなければならない事が山ほどある。

急性期病床が利用されていないとか、公立と私立病院の比率とか、マスコミの意味不明な報道に惑わされてはいけない。

欧米では、コロナ患者を全て公立病院に収容するという方策を取っている国もあるが、日本の公立病院数でそれは可能か?

今からでもそれをやるべきという議論もあるが、効果は限定的であろう。

都立広尾病院がコロナ患者を受け入れるために妊婦を転院させる事にした。

1年前ならそれもアリだったかも知れないが、最早手遅れでは?

政治家が専門知識を持っていないので、日本の医療行政は全く進歩しない。

このコロナ禍からも何も学ばないのでしょうね。