『いなごの日/クール・ミリオン ナサニエル・ウエスト傑作選』

The Day of the Locust, A Cool Million and Two Short Stories

ナサニエル・ウエスト/新潮社(村上柴田翻訳堂)

 

 

英ガーディアン紙1000冊の本のコミュニティでは、毎月第二金曜、土曜、日曜に課題ジャンルを選んで読むという一種のイベントがあります。今月の課題ジャンルはState and Nation。国や文化の事などで一番、日本人にとっては縁遠い本が並ぶジャンルです。

 

この本は柴田元幸さんの新訳で出ていたので、借りてみました。未見ですがタイトルは映画で『イナゴの日』というのがありました。

 

『いなごの日』は中編ですが、1930年代のアメリカ、ハリウッドで成功できず、底辺でくすぶっている人々を描きます。

タイトルのイナゴの日というのは聖書からで、この世の終わりにイナゴの大群が押し寄せる、という予言からだそうです。

 

アメリカン・ドリームの暗転と言えば恰好いいですが、作者はどうしても真善美を頑なに描きません。

では後味悪いかというと不思議な浮遊感を味わいます。

アメリカン・ドリーム=ハリウッド、そしてその底辺で成功できない人々の身辺雑記かなと思わせて、やはり身辺雑記なのでした。

 

しがない映画のイラスト描きの青年トッドや自称、女優のフェイという女の子、その父ハリー、なんとなくハリウッドにやってきたホーマーという金はある青年。

フェイという女の子がしたたかもので、なかなかのやり手なのですが、見た目はプラチナの髪で美しい顔とスタイル・・・しかし女優としては端役も端役、エキストラに近いけれど、トッドもホーマーも愚鈍にフェイに夢中。

 

いいかげん気づきなさいよ、とため息が出るほど愚鈍なんですねぇ~男たちがフェイに群がる様子が。

しかし、まるで「イナゴの群れの襲来」のようなハリウッドスターが集まる映画試写会の人混みに巻き込まれていく様子など物語は奇妙な熱気で一杯になっていきます。

 

よく読むと人々の描き分けがとても細かくて単純で分かりやすい人などいません。

読後、放り出されたような、でも不快ではないという一筋縄ではいかない小説です。

 

もう一つの中編『クール・ミリオン』は、当時アメリカで人気だった真善美の少年もの小説のパロディ。

主人公レム青年は何があっても純粋ですが、どんどん、周りに巻き込まれて悲劇へ・・・しかし、何が起きても前向きに明るくすすむレム青年。片目を失い、歯がなくなり、片足を失い・・・・どんどんなくなっていく身体にもめげず、純粋さをなくさず、悲劇へ飛び込んでいくことになるレム青年。もうトホホ、気づきなさいよとこれも言いたくなるような顛末。

 

作者、ナサニエル・ウエストは、高校卒業できなくても卒業証書偽造して大学に・・・などという本当か嘘かわからない経歴を持ち、37歳で自動車事故で亡くなっているという、あまり作品を残さなかった作家です。

私は村上春樹さんと柴田元幸さんの「埋もれてしまった欧米小説復活シリーズ(村上柴田翻訳堂)」が大好きなのですが、この本は妙な親しみを感じますね。

不思議な作家・・・それが魅力なんでしょう。

私は好きですね。