『えんの松原』伊藤遊(福音館文庫)
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えんの松原 (福音館文庫 物語)
864円
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時代は西暦で言うと900年半ば。
藤原道長が生まれる直前で、京の都は藤原氏が勢力をどんどんのばしはじめている時代。
伴(とも)氏一族である、主人公の音羽丸は没落していく一族の中からはじきだされてしまう。
両親を早く亡くし、母がわりの叔母の真名賀(まなか)は、東国へ行こうとしますが、まだ少年の音羽丸は、つてあって温明殿(うんめいでん)という宮中の下働きになります。
ただし、女性ばかりの中で、音羽丸は「女童」=音羽という名の少女である、と偽って。
音羽は、温明殿の最高齢女官の伴内侍(ばんのないし)の元にいますが、とても厳しい世界。
そんな時、夜、神器である「鏡」を収めている部屋に不審な人物が・・・実はそれは、梅壺という内裏の奥深く、大事にされている、東宮、憲平(のりひら)親王でした。
まだまだ、幼い男の子の憲平親王は、怨霊につかれている、という。
これは音羽丸と憲平という2人の少年の物語で、病や飢饉はすべて「怨霊のせい」という非科学的な世界にいて、憲平は身分が故に「冒険」はできません。
音羽丸は、見た目は女だけれども、中味は実に「荒々しい、現実的な男の子」です。
憲平をめぐる、帝の継承争い。都合の悪いことは全て「怨霊のせい」にしようとする中、音羽丸は自分の足と目で、現実を見据えようとします。「怨霊のせいで」身体が弱いからと、外に出さず、遊び相手は女童・・・という世界にもううんざりしているのが憲平親王。
児童文学でありながら、平安の時代の「闇」をくっきりと描き出し、身分の違いをくっきりと出し、あえて、昔の言葉や物の名前に注釈をつけず、それいて、訳わからなくなることがない。
音羽丸という身分は低いけれど、非常に現実的な男の子が、「誰にも守られず」、えんの松原での怨霊と対峙する。
やはり、この時代というのは夜など真っ暗だったでしょう。今の時代にはない、闇を堂々と描き出す、その子どもに媚びない勇気と確かな時代の描き方にひたすら感心します。

