『残花亭日暦』田辺聖子(角川文庫)

 

 

 

 

 平成14年1月14日深夜、カモカのおっちゃんこと田辺聖子さんのご主人、川野純夫さんが口腔がんで亡くなられました。

 

 最初に田辺聖子さんは、『蜻蛉日記』を例にとって、女の日記というものは、「綿々たる怨み、不足ばかり綴る」と書かれていて、それに反して田辺さんは「よいことばかり、あるように日記」を二十年来書かれているといいます。それがこの『残花亭日暦』です。

 

 しかし、この三年前から夫である川野純夫さんは発病し、車椅子生活を強いられており、その介護と仕事をこなしながら、してきたのは妻の田辺聖子さんです。

そして、この日暦は、川野純夫さんが亡くなる六ヶ月前から始まります。

田辺聖子さんも70歳を過ぎているのですが、執筆に、講演会に、賞の選考委員に、テレビ出演と多忙をきわめています。ミドちゃんという秘書兼マネージャーの女の子がいますが他にも、忙しい時には家政婦さんをたくさん雇い、自分が夫の世話をできない分を補いながらの六ヶ月。

 

 自己憐憫や苦労話をするのは自分の領域ではない、と確かに田辺聖子さんの小説は、ユーモアにあふれ、かつ人間洞察にあふれていますが、多忙なのです。

 

 また、同時に当時92歳の実母の介護も抱えていて、家政婦さん、看護婦さんを頼むとはいえ、それを仕切る田辺聖子さんの底力がわかる日記です。

自分がやらなきゃ、誰がやる、と割り切って、仕事に奔走しながらも、家族の面倒をきちんと仕切る。それをまさに「自己憐憫や苦労話」ではなく、仕事で出会った楽しい話や講演の出来、締め切りに追われる姿を通して、見えるのは、「実にしっかりした人」

 

 だからこそ、夫の病状が悪化して入院しても、講演の仕事で疲れてしまい

夜まで疲れとれず。病院へいけず。食事も摂れぬくらい疲労困憊

といった、疲れの一文が胸に響くのです。

 

 これは若い時にはわかりませんが、家族である以上、仕方ないことです。家族だから、絆だとか愛だとか、口ではなんとでもいえるけれど、実際、ここまでやることが出来る田辺さんの強さと同時に楽天的でありながら現実的な物の見方に、頭が下がる思いです。