『号泣する準備はできていた』江國香織(新潮文庫)

 

 

 

「語尾をのばす大人は、ばかか優しいかのどちらかだ」

 

 大人の恋愛事情を描いた短篇、12篇。

夫婦、不倫色々ですが、表題作「号泣する準備はできていた」はタイトルと内容が秀逸だと思います。

若い時は、が~んとショックで涙が意志と関係なく流れるかもしれません。

 

 しかし、それなりの年になると「こういう状況になれば泣くけれど、これは泣かない」とわかってしまう。そこを突かれたみたいで泣くことの計算をしてしまうようで怖い気がします。結婚したから幸せか、不倫だから不幸か、浮気は罪かと静かに言われているようで考え込んでしまいます。

 

 この短編集は昔の写真アルバムのようです。どの写真に写っている人も「ごく普通の人」その「ごく普通」がこれほどヴァリエーションがある、ということに驚くと同時に何故かほっとする。

それは自分もその普通のひとりだろう、と今は思うからです。

特別なんかになりたくない、権威なんかになりたくない、普通でいい。しかし普通でいることは実は大変な事で、気骨の折れる事なのです。日々のほんの小さな事を凝視する文が書ける人ですね、江國さんは。