『イギリスのある女中の生涯』 シヴィア・マーロウ(草思社)

 

 

 

 

 この本の語り手は、ウィニフレッド・グレース夫人。90歳になっても実に記憶力が衰えず、10代、女中をしていた頃の生活を生き生きと語ったものを著者、シルヴィア・マーロウが回想記としてまとめたものです。

 

 西洋物というと日本の読者や映画の観客からしたら「上流社会」が主流だけれど、その上流社会の人びとがどれだけ下流社会の人びとを使って、依存していたか、がわかります。

ウィニフレッド夫人はあまり辛い思い出は語らず、楽しかった思い出を多く語っています。

 

 それでも、20世紀初頭、南イングランドで牛飼いの12番目の子どもとして生まれた少女、ウィニフレッドが14歳で女中奉公にあがり、結婚するまでが当時の第一次世界大戦をはさんで語られます。

 

 貧しくても、厳しく(厳しすぎるくらいに)厳格だった両親、特に母。

母の言う事は絶対で、父の存在が薄いのです。

ウィニフレッドは母を嫌うのではなく、あくまでも、絶対的な存在であると同時に一番、自分を愛し、心配してくれた人という風に語っています。

 

 結局、結婚まで2つの屋敷で勤める事になるウィニフレッドですが、長く続くのは2つめの奉公先です。

女中とひと言で言いますが、具体的に何をどうするのか、この本を読むとよくわかります。

そして、屋敷を移るにしても、別の仕事につくにしても「紹介状」がないともう、職は得られないという厳しさ。

 

 林芙美子の『放浪記』を思い出すと、林芙美子は本当に放浪するように職を変えますが、同じような時代であっても、社会の仕組みからして違うのですね。

 

  西洋の上流階級を支えている人びと、というものにスポットをあて、また、時代として第一次世界大戦中のイギリスの様子が生活する身からわかるという短いながらも、考えさせられるものが多い本です。