『宇田川心中』 小林恭二(中公文庫)
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この物語は、現代小説であると思います。
プロローグとエピローグで現代の渋谷の街(宇田川町)で出会う若者を描きますが、ほとんどは江戸末期、安政年間がメインとなります。
しかし、この安政年間の登場人物たちは、さらにさかのぼって鎌倉時代の男女の生まれ変わりである、というのが底辺にあります。そして現代の渋谷の街で出会った少女と少年も・・・
つまり、道ならぬ恋・・・・に身を焦がした故に悲劇となった男女は成仏できずにいつまでもいつまでもその怨念というか執念に身を焦がし、それは輪廻転生という形でもって後の世の男女の愛憎にまるで車輪のように受け継がれていくのです。
安政年間、豊かな商家の娘、はつと僧侶の招円が出会い、恋に落ちる。
しかし、はつは許嫁がいるし、招円は仏門の身です。しかし、惹かれあった2人の恋情は誰も止めることができない。
そして、「宇田川心中」というように、その恋の成就は若い2人が考えるほど甘くはありません。
しかし、この2人はかなわなくても、叶えてみせる・・・その結果の心中かもしれません。
心中しなければ成就しない恋。そんな恋は今、現代にあるのでしょうか。
現代小説、と思ったのは、言葉使いが、鎌倉時代であっても、江戸時代であっても実に現代風だからであって、そのせいで、大変読みやすいものになっていると同時にこれは、時代小説ではない、という思いにもかられます。
恋というのはいいもの、だけではありません。恋が故に人生が破滅した者は、恋を呪う。
すべては恋のせいなのだ。そんなものがあるから、娘たちは耐え難き苦しみを背負ったのだ。
恋こそは憎悪と諍いの根源だ。これを絶たぬ限り、世に悲劇は繰り返されるだろう。
恋を賛美し、恋を謳歌する者に呪いあれ。
しかし、この物語ではそんな「呪詛」をはねとばす「心中を辞さない恋の強さ」も描きだします。
現世で恋が成就せねば、来世で結ばれよう・・・そこまで思い詰める恋人たち。
全体が、芝居仕立てでまるで芝居を見ているような「非現実、非日常」そんな世界を独特な現代語でもって描きだした、ある種、特殊な時代小説。
恋愛小説が苦手、という訳ではないのですが、恋愛というのはその人の感情に直撃するものを
持っているから共感と反感の狭間にゆれる難しい分野です。
しかし、作者はとことん芝居仕立てー非現実の中にある現実を見事に描き出し、そして読む者の
気をそらさない。読みやすいといえば読みやすいのですが、その底に流れている「恋愛感情」の
深さはとことん深いとみました。
終わり。
