『ペンギン・ハイウェイ』 森見登美彦(角川文庫)

 

 

 

 

 この本の主人公、アオヤマ君、小学4年生は、世界で一番忙しいたいへんりこうな小学生です。

そう自分でそう言っているのだから、そうなのでしょう。

アオヤマ君は、何でも研究対象にして、難しい本を読んで知識を仕入れ、ノートに書き、研究活動にいそしんでおられます。

クラスのいじめっ子、スズキ君ですら、スズキ帝国研究としてその心理を観察、分析している。

 

 本に書いてあることを絶対だと信じるだけでなく、大学で教える父の言う通り仮説を立て、ノートをとり、勉強にはげみ、本を読む。宇宙のことも、海のことも、相対性理論のことも知っている。

アオヤマ君はとてもりこうだから、他の子は相手にせず、ほとんど口をきかない。

それでいいのだ、ぼくはたいへん研究に忙しい小学生であるのだから、という完全自己完結。

転校生でちょっと気の弱いウチダ君が唯一の相棒です。

 

 そしてアオヤマ君が遭遇する突然現れる、謎のペンギンたち。

ウチダ君と大変賢い女の子、ハマモトさんもペンギンの研究に加わる事になる。

この物語は、ファンタジーであると同時に『ソラリス』の影響を受けたSF小説でもあるのです。

 

 そのことで、微妙に人々の感情にさざ波が起こるのですが、アオヤマ君は全く気がつかないぼんくらぶり。

その辺、よくわかっているのは、実はウチダ君なのです。

「スズキ君がぼくたちをいじめるのは、スズキ君がハマモトさんを好きだからだ」ということがアオヤマ君は全くわからず、ウチダ君は思わず・・・「アオヤマ君は全くわかってないなぁ」

 

 この世には「大人の世界」「子どもの世界」「大人と子どもの世界」の3つがあると思うのですが、作者、森見さんは、そこを本当にきっちりと描いていますね。

子ども同士のことに大人は口を出さない。大人の会話に子どもは入らない。そして家族や学校という大人と子どもが一緒になる世界。

 

今、どこもかしこも「大人と子どもの世界」になっていませんか。

けじめがなくなっているんですね。ともだち親子とか、恋人親子、おこちゃま夫婦などというものはこの物語には存在しません。べたべたと依存しあう姿がないのが爽快とも言えます。

そこがとても気持よい世界でした。

そして、森見さんの文章の句読点の打ち方はとても美しいのです。

 

 

終わり。