『ブリギーダの猫』 ヨアンナ ルドニャンスカ(未知谷)

 

 

ブリギーダの猫 ブリギーダの猫
1,944円
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 1939年、ポーランド、ワルシャワ。

戦争によるユダヤ人迫害を、6歳の少女の目から描いた物語。

しかし、全体を貫く雰囲気はあくまでも静謐であり、過激な、過剰な描写は一切なく、むしろ

淡々としています。

 

 6歳の少女、ヘレナはポーランド人なのですが、お父さんとお母さんは、ユダヤ人たちがゲットー(ユダヤ人強制居住区)へと追いやられる中、ユダヤ人をかくまい海外に逃がすということを戦争中もずっとします。

 

 そんな時、木の上でヘレナは美しい三毛猫と出会う。三毛猫は普通にヘレナに話しかけてきます。ヘレナの乳母、スタンチャが動物嫌いだから、といって父の同僚カミルさんの家にもらわれていく猫。猫はカミルさんの妹、ブリギーダにあげる、と聞いたヘレナ。

 

 その後、ユダヤ人のカミルさんがゲットーへ連れていかれる時、ヘレナにその猫を託します。

ヘレナは、その猫を自分の猫にしようとは思いません。あくまでもブリギーダの猫だから名前はなし。ブリギーダの猫、と呼びます。

 

 この物語は、実話を元にしたそうでヘレナのモデルになった女性のお父さんは実際戦争中、ユダヤ人をたくさんかくまい、戦後表彰されています。

作者、ヨアンナ・ルドニャンスカは、大変な親日家であって、最後に日本のみなさんへというあとがきもあります。

 

 作者が出会ったある日本人小学校教師のエピソードを載せています。

それがこの『ブリギーダの猫』を書くきっかけとなったのです。

その若い日本人教師はアウシュヴィッツを見学したい、と言い、「日本に帰って子どもたちに伝えるために」と言ったそうです。作者はそんな悲惨な話を9歳、10歳の子どもにするなんて!と反対すると、こう言ったそうです。

 

 九歳というのはそんな事実をするには最も良い年ごろだ。その年代を過ぎると子どもはそんな知識を受け入れなくなる。あるいはすぐに忘れてしまう。

 

 戦争という特殊な環境でなくても、いつでも私たちの周りは何かが起きている。

小学校教師の言う通り、九歳をすぎたら、確かに「事件」に慣れてしまうのです。

それに密かに警鐘を鳴らしている小説です。

 

  ヘレナの中ではブリギーダは、猫の飼い主を超えて、親友になれればいいな、と思う。

しかし、ブリギーダというのはもともと存在しない「いなくなってしまったユダヤ人」のことではないでしょうか。やさしいカミルさんは、ヘレナにブリギーダという空想の友人もプレゼントしてくれたように思います。

 

 皆、去ってしまった後に残された少女はひとり、庭で縄跳びをする。

頭の中で、空想の親友、ブリギーダを思い描きながら縄跳びをする。

そんなひとりでぽつんと縄跳びをする少女を描くだけで、「いなくなってしまった人々」を描く空白の出し方などとてもきれいであり、同時にとても哀愁を感じる物語です。

 

 

終わり。