『空色勾玉』 荻原規子(徳間文庫)
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空色勾玉 (徳間文庫)
741円
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子供心に、古代、上代と呼ばれるほど昔、まだ、仏教や基督教が日本に伝来する前の昔、八百万の神がいた日本の神話の世界は実に神秘的で、浪漫を感じていました。
荻原規子さんの『空色勾玉』を読んだ時は、こういう日本の神話をベースにした豊かな日本の児童文学がとうとう出現した、と思いました。
萩原さんは、イギリスの児童文学に親しまれ、やはり、歴史や神話、伝説をベースにした児童文学が日本にないことを感じ、10年構想の上、自分が読みたかった物語を書いたと書かれています。
豊葦原(とよあしはら)の国が舞台。古代、まだ神々がいたころの日本です。
輝(かぐ)の御子と呼ばれる不死の神々の中で、双子の照日王(てるひのおおきみ)と月代王(つきしろおおきみ)が、土着の闇の氏族を制圧し、国家統一をしようとしている戦乱の時。
羽柴という国の狭也(さや)という15歳の少女が主人公です。
輝の一族に滅ぼされて両親を失ったものの、今は羽柴の国で養父母のもと、健やかな少女となっています。
そんな時、村の祭り、嬥歌(かがい)の日に祭りの楽人に扮した闇の氏族たちに出会う。
そこで、すぐに狭也は、「水の乙女」だ、と言われてしまう。
また、その夜、輝くばかりに美しい、月代王が祭りに現れ、すぐに狭也を「水の乙女」だと見抜き、側に来るようにします。
最初は、憧れていた月代王に、「見染められた」と有頂天な狭也ですが、実際、宮にあがってみると窮屈で苦しいことばかり。
また、火の様に激しい姉の照日王からは、敵視され、肩身の狭い思いをしますし、一体「水の乙女」とは何のことだかさっぱりわかりません。そして、もとは闇の氏族のものであった「大蛇の剣」が今、宮にあり、その部屋に幽閉されている不思議な第三の御子、稚羽矢(ちはや)と出会う。
狭也と稚羽矢は、ともに「えらばれし者」なのですが、本当の力はなかなかその姿がわからない、まだまだ、自分の力に目覚めていないという少年少女でもあります。
それが、徐々に、自分の力に目覚めていくのをじっくり描いた物語。
この物語には、相対するもの、惹かれあいながらも、離れられないものが、たくさん出てきます。
天の父神と地の母神、輝と闇、双子の照日王と月代王(太陽と月)、神と巫女、狭也と稚羽矢・・・
その相対するものが、ほとんどすべて「男性と女性」になぞらえられています。
児童文学でありながら、相対する男性と女性の基本的な姿を低音演奏として、豊かで、激しい神々の世と人間たちの戦いの旋律、そして、剣の持つ魔力といった装飾音、まるで豊葦原の国で一緒になって生きているような、正確で、想像力をかきたてる情景や自然の描写のすばらしさ。
この物語は、『白鳥異伝』『薄紅天女』と時代と設定を飛び越え、続いていきます。
作者は、イギリスの歴史ロマン小説をたくさん書いたローズマリ・サトクリフを意識して、それに匹敵するくらい、重厚な歴史ファンタジーを書きあげました。
こういう世界が日本にもっとあればいいのに、と切望してやみません。
終わり。

