『魚舟・獣舟』 上田早夕里(光文社)
![]() |
魚舟・獣舟 (光文社文庫)
637円
Amazon |
表紙絵が、この短篇集の美しくも、哀しく、残酷でもある乖離の物語をよくあらわしています。
異形の者とは一体何を指すのでしょうか。
短篇5篇と中篇1篇から成りますが、短篇の共通テーマは「異形」です。
その中でも特に突出しているのが表題作『魚舟・獣舟』
陸地がほとんど海に没してしまった未来。陸に住む「陸上民」と舟で海上生活を送る「海上民」にわかれています。陸地が少ない分、陸に住める陸上民は特権階級。
海へ、海へ・・・とその生きる道を海に選んだ人間たちは変化を遂げる。舟を陸上で作るのではなく、産む。
海上人は子どもを産む時、必ず双子を産む。ひとりはヒト型、ひとりは魚型をしていて、魚型は海に放す。その魚型の双子の兄弟姉妹は「朋」と呼ばれ、海で成長できたら必ず戻ってきて、そこで魚舟の操舵者と舟の関係ができる。海上民とは魚舟と一体となって初めて認められる。朋は必ず、生き延びるとは限らない。
出会えなかった朋はさらに獣舟となって陸上へあがる「怪物」となってしまう。
船ではなく、舟という設定の仕方と陸と海との完全な隔絶。どの短篇も乖離を描いていて、妖怪たちが跋扈する街、謎の病原菌で立ち入りが禁止された県、そこに居る者は異形のものとなる。あるエリアでは許されるが、別のエリアでは許されない。
『真朱の街』は妖怪たちが跋扈する街に逃れてきた男の物語ですが、そこで出会う妖怪が医学的、科学的、機械的進歩を遂げた人間に対して云う。
ヒトとしての形態を変容させつつあるおまえたちの外観は、もはや同様に生物として十分に異形だ。人間の心自体、昔から妖怪に負けないくらい凶暴なものだった。外見の差異が縮まった現在、我々とおまえたちの間にはすでに垣根は消失しているのではないかね?
中篇とも言える最後の『小鳥の墓』は、異形というより、人間の精神の異形を描いています。
未来の都市。特権階級だけが住める、外に出られないように保護された特別区ダブルE区に住む、15歳の少年が、外の世界に目覚め、そして自分の中の残虐だがスリリングな快楽を知る事により、どんどん「温室の中」の世界に疑問と不満を抱く行程を描いています。
SFというより、ファンタジックな世界ではありますが、グロテスクをグロテスクと描かず、魚の姿をした朋、青い炎に包まれた妖怪、美しい思い出しか残さない謎の病原菌、音を糧に育つ生物・・・その世界は、どの世界も違っていてその描きわけにも驚きます。残酷な物語であると同時に、異界、異形の者の哀しみややるせなさを美しく描く短篇集。
終わり。

