『星と輝き花と咲き』 松井今朝子(講談社文庫)
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星と輝き花と咲き (講談社文庫)
691円
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いつの時代にも人気者(アイドル)がいて、その熱烈なファン、支持者によってその人気者は人気を誇る、という図式は変わらないのです。
若い、綺麗、かわいい上に芸達者(その芸が何であっても)に人々は飛びつく。しかし、その後には、また、その次の世代が押し上げてくるのです。
そして、「アイドルとは作られるもの」なのです。マネージメントが上手い人が、その芸達者が活躍する場を作ってくれないと、人目につくことは難しい。
この物語は、明治時代に実在した女義太夫の竹本綾之助の「すさまじいまでの人気ぶり」を再現しながら、「アイドルの苦悩」を描いています。
前半は、大阪でたまたま義太夫節に筋がある、と見込まれたお園という少女が、天才的な才能を示し、どんどん人気者になって成功の階段を登る様子がものすごいスピードで描かれます。
お園は、芸を身につけるために命をけずるような苦労はしません。また、人気を得るために身を売るような事をしないですみます。お勝という母と、仕事を一切仕切る近久という男に守られて、いわば、綾之助は義太夫だけやっていればいい状態。
東京に出て、「天才的な女義太夫、しかもまだ子供なのにその声、節、音まわしは天の声。しかも見た目も美しく、若く、めずらしい」とあっという間に一座を担う綾之助師匠となってしまいます。苦労して、自分を犠牲にして、という手垢にまみれた苦労人ではない、その初々しさで東京の人たち、そして東京にいる書生(大学生)たちのアイドルとなる。
だんだん人気が出てくると新聞や噂でありもしない醜聞がかきたてられる。
どこへ行っても目だってしまうので、ひとりではどこへも行けない。
いくら義太夫で姫君の恋を謡い、浮気された女房の恨みを謡っても、綾之助は、世間知らずのお譲さんなだけ。
やりたいことをやって、成功したい、しかし、それが認められれば、人気が出れば世間の目が厳しくなって、変な追っかけたちから逃げ回るという事も受け入れなければならない。
人気者、アイドルのジレンマです。誰からも見向きされない、追っかけられなければ、「人気者失格」なのです。
松井今朝子さんは、芸というものを描きながら、その周辺の人間の心理を描くことが大変すぐれていますし、読ませて、考えさせられてしまいます。その手腕には背中をいつもぴん、と張っているような強い筋を感じます。
終わり。

