『とらのゆめ』 タイガー立石(福音館書店)
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とらのゆめ
12,310円
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誰もが夜、眠ると夢を見ます。
ただ、忘れてしまうそうで、よく言う「夢も見ないでぐっすり寝た」というのはありえない、と聞いたことがあります。
この絵本は、緑に濃紺のしま模様を持つとらのとらきちが、見る夢です。
ぐう ぐう ぐう
とらの とらきちは
ゆめをみます
ねむい ねむい
とらきちは「とら」なのですが、緑に濃紺のしまのとらきちは、丸くなるとまるでスイカのよう。
ゆめを見るとら、というより、もうすでにとらきち、夢の世界の何かの生き物です。
詩人の穂村弘さんは、この絵本を「もうひとりの自分」と評していましたが、「ゆめのなかのゆめ」ではないでしょうか。
とらきちは、眠りというガラスケースのような、白濁した箱から、抜け出し、緑の荒野をひとりで、たった、と歩きます。
そして赤いしまの模様のだるまさんに変身。そしてひゅるひゅるともとに戻り迷路にはいる。
そこでとらきちはまず、同じ色のとらきちたちに分裂します。次には色々な色のとらきちにさらに分裂。
色の配色が緑に、青が基本の中に鮮やかな反対色の赤い太陽らしきものが3つあるかと思うと、緑の荒野に赤い葉が鮮やかにありますが、そこには「生命」というものが全く感じられません。
タイガー立石さんの絵は、写実的というより、シュルレアリズムの絵に近い超現実を描きます。
シュルレアリズム作家といわれる、エルンスト、キリコ、ダリの絵やマン・レイの写真などを見ると分解して再構成、という言葉が浮かび、まず、既成概念破壊します、という強い意志のようなものを感じます。
しかし、この絵本からは、「(既成概念を)まず、壊します」という雰囲気は全く感じられません。
むしろゆめのなかで、とっとこ歩くとらきちの変身はユーモラスで愉快。
見る側の意識に対して、とらきち(タイガー立石さん)全く無意識という意識の有無のぶつかりあい。ですから、結構、この絵本は、色々なものが衝突しています。衝突して分裂している。
完結したあるひとつの世界を絵本というものに閉じ込めた、そんな気がします。
どんな夢を見てもとらきちは、目覚めて、何の影響もなく、普通にとらきちとして暮らすのだろう、という妙な安心感と安定感に満ちているゆめの不条理世界。
不条理なのに安定、というところ、子どもはどう受け取るのでしょうか。
終わり。

