7,垂直尾翼の破壊プロセス
《以下、(”)は2乗(上付き小文字の2)を示します。》日航機の垂直尾翼は上端に何らかの飛翔体が衝突したことで破壊したことを、下図と併せて説明します。日航機は220m/sで飛行中、飛翔体は重量1ton直径1mで横方向から飛来、衝突の角度30°、と仮定すれば、220×sin30°≒110m/sの相対速度で衝突します。飛翔体は、衝突によって弾き飛ばされますが、運動量保存則を適用し、反発係数を0と想定して計算すると、衝突後の速度は110m/sとなります。衝突の作用時間を0.01秒(2.2m飛行)として衝突による加速度を計算すると、110÷0.01≒11000m/s”となり、飛翔体の重量の1tonを掛けて、11000000Nの巨大な力が発生します。飛翔体は衝撃で二つ以上に分解し、垂直尾翼も破壊します。作用と反作用の関係で、同じ大きさの力が垂直尾翼にも発生し、この衝撃力が下方へ伝わります。垂直尾翼の軸に対して直角方向の力(Fa)は、玉突きのように、垂直尾翼・方向舵を破壊しAPUを離脱させ、垂直尾翼の軸方向への力(Fb)は、垂直尾翼の胴体との結合部付近に達します。結合部に伝わる力は、前方向へ働く縦衝撃(Fl)と、下方向へ働く横衝撃(Fv)に分解でき、それぞれが機首の方へ伝わり、加速度として胴体中央部にある加速度計に表れます。また、縦衝撃と横衝撃は伝播速度が大きく異なり、別途概算の結果によると、衝撃が加速度計へ伝わる時間の前者と後者の差は、約0.7秒になります。飛翔体に比べ胴体中央部の重量は極めて大きいので、胴体中央にある加速度計に表れる加速度としては極めて小さい値になります。また、縦衝撃の伝播速度は速いのでほぼ胴体重量全体の約200トンに作用しますが、伝播速度の遅い横衝撃は約100トンに作用します。垂直尾翼が機体の垂直方向に対して35°後方へ傾いているとして、加速度計に表れる加速度の大きさを概算すると、縦衝撃(LNGG)については、11000000×sin35°×0.04×cos(30+35)°÷200000≒0.534(m/s”)≒0.055G横衝撃(VRTG)については、11000000×cos35°×0.06×cos(30+35)°÷100000≒2.29(m/s”)≒0.23G上式で、0.04および0.06は、垂直尾翼上端に生じた衝撃による力が、伝播する過程で分散・屈折・反射を繰り返して継続時間が延び、大きさが小さくなることを想定し、また0.06については衝撃により水平安定板が跳ね上がったことによる水平尾翼が下向きの揚力を加えています。事故調報告書「別冊」のページ91~92に示す「DFDR拡大図」によれば、35.7秒に0.047Gの前向き加速度が、36.4秒に0.24Gの下向き加速度が記録され、上記計算に近い値が確認されます。(35.6秒に衝撃が結合部に達している。)垂直尾翼の桁を経て胴体に伝わる下向きの力=横衝撃は、尾翼部分を下へ動かします。11000000×cos(30+35)°×cos35°×3≒11400000N)の力が下方へ働き、11400000÷100000≒114(m/s”)の加速度が0.01秒間働きます。114(m/s”)の加速度が0.01秒間働くと、1.14(m/s)の初速度で尾翼部が下方へ動きます。水平尾翼が下方へ動くと迎え角が増え、水平尾翼自体の揚力が復元力として働きます。加速度の変化を図示すると、短い時間幅の大きなパルス波形の後にsin波形が続きます。尾翼部の加速度を時間に関して積分すると変位速度になり、これをさらに積分すると水平尾翼の垂直方向の変位量となり、図示すると概ねsin波形になります。尾翼の衝撃と変位は機首方向に伝わり主翼の迎え角が変わり揚力が変わります。迎え角が増加すると主翼の揚力が増し、その力により上向きと前向きの加速度が増加しますが、尾翼の変位が主翼に伝わり揚力が変化するのに約1秒の時間を要します。「DFDR拡大図」には37.8秒に、0.9Gの垂直方向加速度増加のピーク値が記録され2.5度の迎え角増加のピークが記録されているのは、このような動きを反映しています。以下、下図と併せて説明します。DFDR拡大図のAOAとVRTGは、ほぼ同期して変化し、sin波形を描いています。この変化は、水平尾翼の垂直方向の動きに基づいていますが、垂直尾翼が衝撃で破壊された後の、水平尾翼の垂直方向の動きを数式で表すと次のようになります。加速度 α=A×B×sin2πf(t+2t0) (m/s”) ―(1)変位速度 v=-(1/2πf)×A×B×cos2πf(t+t0) (m/s) ―(2)変位量 x=-(1/2πf)×(1/2πf)×A×B×sin2πf(t) (m) ―(3)Aは減衰係数で、初期値を1とし徐々に減衰する係数。(A=e-βtで表される。「-βt」は上付き小文字。)Bは、初期条件による数値。tは経過時間。t0は力・変位が伝播していく時の機体の撓みによる水平尾翼の反応を補正する時間。2πftはラジアンで表す角度で、2πラジアン=360°。AOAとVRTGより、この波形の1サイクルを読み取ると約4.2秒になります。従って、2πf≒6.28÷4.2≒1.5(1/s) 1/(2πf)≒4.2÷6.28≒0.67(s)この条件と、「垂直尾翼の破壊プロセス―1」の後半で想定した、衝撃直後の初速度1.27(m/s)を(2)式に入れ、(1)、(2)、(3)の各式を整理すると、加速度 α=A×1.71×sin1.5(t+2t0) (m/s”) ―(4) (衝撃による短いパルス波形の後、初期値1.71(m/s”)で、sin波形を描いて急速に減衰)変位速度 v=-A×1.14×cos1.5(t+t0)(m/s) ―(5) (衝撃により急速に立ち上がった後、初期値1.14(m/s)で、cos波形を描いて急速に減衰)変位量 x=-A×0.76×sin1.5(t) (m) ―(6) (衝撃後、初期値0.76(m)で、sin波形を描いて急速に減衰)減衰係数については、DFDR拡大図のVRTGの変化よりβ≒0.18(1/s)と概算でき、4秒後には初期値の48%にまで減衰します。また、t0を概算すると約0.08秒です。水平尾翼の変位が主翼に伝わり、主翼の迎え角を変え、揚力を変え、垂直方向の加速度の変化として表れます。しかし、尾翼の変位と力が主翼・機首まで伝わり、さらに加速度計に伝わるには時間を要し、尾翼から機首および主翼への伝播時間はおよそ2秒を要します。また、DFDR拡大図のAOAとVRTGが、40秒以降、急速に傾斜が緩くなり、さらに変動が消えているのは、減衰により1サイクルの時間が極めて大きくなり、変動が停止したためで、機体を伝わる力・変位の減衰、水平尾翼揚力による復元力の効果と推測されます。DFDR拡大図を解析すれば、日航機の垂直尾翼上端に飛翔体が衝突して、それを破壊したことは明らかです。なお、衝撃の伝わり方および縦衝撃と横衝撃の違いについては、下記の図を参照。斜め衝撃を二段階経ると、垂直尾翼の前方上方からの衝撃から、胴体に前方向および下方向への衝撃の生じることがわかります。次に、上記に述べた、縦衝撃と横衝撃の伝播時間の差について説明します。(以下、「Tl,Tv,Ea,ρa」の「l,v,a」は下付き小文字を、「m2,m3,L2,B2」の「2,3」は上付き小文字を、√はroot=平方根を示します。)1、円筒構造に対する縦衝撃の伝播時間の基本式 Tl=L/√(Ea/ρa)まず、日航機の構造に当てはめ、衝撃の起点から加速度計までの距離L=30m、胴体半径は3mとします。外板は与圧によって膨らみ波打っているので、衝撃の伝播に対して寄与しないため、機体の外殻は実質的にストリンガーで構成されます。アルミニューム合金A2024Pのヤング率、E=74GPaとします。フレーム(横桁)は密度を構成する要素ですがヤング率には影響しません。ストリンガー断面積の累計≒0.05×0.002×80=0.008(m2)全断面積≒3.14×3×3=28.26(m2)ストリンガー断面積の累計/全断面積=0.008/28.26≒0.00028実効ヤング率、Ea≒E×0.00028≒0.021(GPa)実効密度、ρa≒胴体全重量/胴体全体積≒200000(kg)/1500(m3)≒133(kg/m3)(√(Ea/ρa)≒√(21000000÷133)≒396(m/s) Tl=30/396≒0.076(s)2、円筒構造に対する横衝撃の伝播時間の基本式 Tv=L2/(4.5×A)Aは曲げ剛性と密度と断面の回転半径で決まる係数で、棒または筒の横振動の共振周波数に関する次の公式より算定できます。 A=f×B2÷1.133π(Bは、棒または筒の長さ)Bとしての胴体全長を64mとし、DFDR拡大図からf=0.24(c/s)が得られるので次のように算定できます。、 A=0.24×64×64÷3.56≒276(m2/s) Tv=30×30÷(4.5×276)≒0.725(s)3、まとめ従って、胴体での縦衝撃と横衝撃の到達時間の差は、Tv-Tl≒0.725-0.076=0.649(s)を想定できます。複雑な機体構造に対応した厳密な計算は困難なため、上記の計算は、縦衝撃と横衝撃の到達時間が大きく違うことを確認するための概算です。事故調報告書のDFDR拡大図で、LNGGの35.7秒に0.047Gの突出が、VRTGの36.4秒に0.24Gの突出があり、この時間差0.7秒は上記算定結果にほぼ適合します。ーーーーーーーーーーーーーー補足説明縦衝撃と横衝撃の伝搬速度が大きく異なるのは、日航123便の機体構造が、ストリンガーとフレームにより篭状の構造の上に薄い外板をリベット止めした構造だからです。伝搬速度が大きく異なることと機体の撓みの進み方は、簡単な模型で確認できます。垂直尾翼の破壊は、その上端に飛翔体が衝突したためという根拠を、次の「8,垂直尾翼の破壊原因」に示します。