フリーランスから正社員へと“回帰”する「キャリアの逆流」が急増している。時間や場所に縛られない自由な働き方が魅力とされるフリーランスだが、その理想と現実のギャップに直面する人も多いようだ。
『わたしとニュース』では、実際にフリーランスから正社員に戻る決断をした当事者の声を紹介しつつ、エコノミストの崔真淑氏とともに、正社員回帰の背景やこれからの働き方について深掘りした。
「AIの普及」と「短い案件」…当事者が語る“正社員回帰”の理由
スマートフォンアプリの開発などを手掛けてきたフリーランス歴5年のAさんが、“正社員回帰”を意識したワケは…。 「エージェントからスマホアプリ案件が少なくなってきて、正社員の求人の方が増えていると聞いた。次は正社員を探した方がいいと意識した」(Aさん、以下同) 一度は手放した正社員へ戻ることを考え始めた背景には、今の時代ならではの事情があった。 「AIが普及し始めていて、(働くには)私の経験していない上流の工程を求められている。今までやったことのない部分だったので、(仕事の)案件は少なくなっていくと改めて思った」 さらに追い打ちをかけたのが、フリーランスとして確保できた仕事の長さ。わずか3カ月間という短い案件が2回連続で続いたという。 「2個目の(仕事)も短くなってしまった。それで焦燥感はすごく感じた」 正社員への“回帰”を目指して、ゴールデンウィーク明けから就職活動をスタートしたものの…現実は甘くなかった。 「手応えは、思ったより書類審査が通らない。20〜30社ほど書類の応募をして、書類審査を通ったのは7社くらい。書類審査や1次面接で落ちてしまい、“見送り”(不採用)になって多少は落ち込んだ。力が無いんじゃないかと」 『今回はお見送り』と『不採用』を知らせる企業からの連絡が続く中、Aさんを支えていたのは転職エージェントからの『応援しています』という激励LINEだった。 「面接の日は結構緊張したが、エージェントから『頑張ってください』とLINEをもらっていたので、フリーランスの方が結構きつかったので、それに比べたらメンタルは全然大丈夫だった」
■肝心の年収は「200万円ダウン」でも“納得の理由”とは
途中で希望条件を緩めながらも、およそ1カ月半の就職活動を経て、最終的に2社から内定を得ることができたAさん。気になる年収はどうなったのか。 「フリーランスより200万円は下がったが、“正社員換算”だとフリーランスと実質同じくらいと(エージェントに)言われた年収。正社員になるので下がった感覚はそこまでない」 このAさんの決断と年収に対する納得感について、かつて正社員として働いた後に独立、今は自ら会社を経営する崔氏も深く同意。 「私もこの意見には本当に賛成で、やはり社会保険料や、独立してしまったら育休・産休もはない。もし身体に何かあって休業したとしても、正社員なら最低限の給料をもらえるかもしれないが、独立していたらそれはもらえない」(崔氏、以下同) 「保険料やもしものことを換算したらそうなるのは当然で、実際に自分で会社を経営してみるとなるほどと思うが、今もらっている給料の大体3倍くらい売り上げを立てないと、様々な経費やコストを差し引いても残らない。多分、多くの会社側もそう思っているのではないか」
■「自由な働き方」の裏にある“過酷さ”とは
フリーランスの人口は10年でおよそ40%増加し、副業などを含めると1303万人(24年)に上り、経済規模は20兆円以上とも言われている。しかし、自由な働き方の裏には過酷な現実もあると崔氏は指摘する。 「フリーランス=自由で、自分流に働けて時間もコントロールできるところは魅力かもしれないが、やはり自由には責任も伴う。自分の身体や家族、時間マネジメントなど、いろいろと実は考えなければならないことがあるので、そのギャップに対して考える人が増えている」 「フリーランスは私自身を振り返っても、健康だからこそできたり、身体との付き合い方を考えたりと、実は自由というよりも様々なことを心の中でマネジメントしなければならないと感じる。そういうリスクとリターンを考えて、やはり企業にいた方が働きやすいのではないかと考える人が増えているし、もちろんAIの影響もあると思う」 さらに、今の仕事があっても次があるかわからないという不安。次の仕事への“種まき”を意識する中で、仕事とプライベートの区切りがつきにくくなると解説する。 「すべての時間をプライベートと仕事の充実だけでなく、次の仕事の“種まき”にも使う。自分で営業もしつつ、家のこともやるため区切りがつきにくい。メールが来ても、今対応できるからとすぐに対応しなければモヤモヤしてしまう。(自由に働けるので)区切りがつけられると思ってフリーランスになったら、むしろそうではなかったというケースもある」 こうした中、フリーランスをめぐる状況は激変。AIの台頭により企業側が求めるスキルの変化も、正社員回帰の流れを後押ししているようだ。 「AIがいろいろな作業的な仕事をしてくれるため、会社としてはみんなで協調する、チームワーク、まとめ役、リーダーなど、AIの代わりがきかないところをやってほしいと今は考えている。しかし、フリーランスの人がそこをできるのかと躊躇する企業もあると思う。そういったこともあり、とにかく人手不足だからといって何でも(正社員の選考が)通るわけではないというのが現実」 自由と引き換えに負う大きな責任とプレッシャー。そしてAI時代に求められるスキルの変化。フリーランスという働き方の理想と現実を見つめ直し、安心と安定を求めて正社員に“回帰”する動きは、今後さらに広がっていくのかもしれない。
