熱中症による救急搬送が5月から静かに増えている。

安全なはずのエアコン付きの室内で、高齢者が暑さを感じないままに意識を失う――。

なにが起こっているのか。

■エアコン付きの部屋で倒れ  救急隊が部屋に入ったとき、まず目に入ったのはエアコンだった。

確かに冷房は運転中だ。だが、窓が開いていて、蒸し暑い外気が流れ込んでいる。

その室内で、高齢者は長袖・長ズボンのまま倒れていた。

別の現場では、冷房はついてはいたが

住人の高齢者が厚い布団をかぶったまま、意識を失っていた。エアコンはあるのに

スイッチが入っていなかったケースも珍しくない。  

安全なはずの室内で熱中症になり、救急搬送される高齢者が増えている。

異変に気づき、119番通報するのは家に帰ってきた家族や訪れた親類というケースがほとんど。

冒頭の事例はいずれも横浜労災病院・救命救急センターの中森知毅医師が、救急隊員から聞き取ったもの。

 中森医師は、高齢者の熱中症を長年診てきた救急医で、日本救急医学会の熱中症研究にも関わってきた。  

横浜労災病院がある横浜市港北区は、65歳以上の高齢化率は20%ほどで

「高齢化が特に進んだ地域ではない」(中森医師)。

だが、救命救急センターに運ばれてくる熱中症患者のほとんどは高齢者。

多くは、自宅の室内で倒れていたという。 

■熱中症搬送の半数超が「住まい」で発生  

日本救急医学会が全国の救命救急センターに入院した熱中症患者を継続的に集計する

「Heatstroke STUDY」によれば、入院が必要となる熱中症は、毎年千例規模で発生している。

近年の症例数は、2017~18年で1781例、19年1295例、20年1030例、21年1157例。

20年に特に減少したのは、新型コロナウイルス流行による外出機会の減少が影響したとされる。 

総務省消防庁の24年の速報値では、熱中症搬送の52.1%が「住宅」で発生している。

重症例の約7割が高齢者で、死亡者数でも年間800~1500人の約8割が65歳以上を占める。

■エアコンは「ぜいたく」、使用にためらい  なぜ、高齢者の搬送が目立って多いのか。

それには、高齢者の身体面と心理面、両方に理由があるという。

 「高齢者は加齢によって、暑さへの感度が落ちています。

そのため、エアコンの使用をためらいがちになる」(同)  

中森医師は、自身の90代の両親を例にあげて教えてくれた。

数年前の盛夏、実家を訪れた際のことだ。 「蒸し暑い真夏の日に長袖で厚着をしていた。

暑さを異常として感じる力が相当落ちていると思いました」  

心理面での理由は、前述同様「エアコンを使うことへのためらい」。

中森医師は、現在の高齢者が育った時代背景に注目する。

エアコンは電気代がかかるもの。

『ぜいたく品』の認識が根強く残っているのでは」 

 つまり、高齢者は暑さに気づきづらく

エアコンの使用をためらってしまう。

さらに発熱やだるさといった熱中症の初期症状が表れても

「まだ大丈夫」「寝ていれば治るだろう」と考え、対応が遅れると言います。