<渡くんの××が崩壊寸前>

タイトル“××”に入る言葉とは?

 
 

「おまえだけだよ、オレをシスコン呼ばわりしないのは」。

現在放送中のTVアニメ「渡くんの××が崩壊寸前」(毎週金曜深夜1:00-1:30、TOKYO MXほか/FODにて独占配信)は

 

「月刊ヤングマガジン」にて連載された鳴見なるによる同名漫画が原作のラブコメディ。

青年漫画らしい少し色気がある作風で

よくある冴えない主人公と彼を取り囲む美女たちのハーレムものだが、実は“王道”ではない。

 

少し、ダークでミステリー要素もあるのだ。そして何よりもキャラクターそれぞれの人格がどういう

背景で形成されたのかが気になってしまう、細かい“間”の描写があり

それぞれの過去もいやらしくチラ見せさせてくる。

そこで、本コラムでは本作の“王道ではない面白さ”を紐解きましょう!

「渡くんの××が崩壊寸前」第1話より

原作未読の視聴者が楽しめるポイントは?

主人公・渡直人(梅田修一朗)は、妹の鈴白(矢野妃菜喜)と叔母の家で暮らす高校2年生。両親を亡くしてから、恋愛も部活もバイトもせず友達付き合いも断って、妹を最優先に生活していた。だがある日、幼なじみの館花紗月(矢野優美華)が同じ学校に転校してきて、直人の平穏な日常は一変する。紗月はかつて、直人と一緒に育てていた畑を突然めちゃくちゃにした“畑荒らし”だった。紗月の起こした波紋は、直人を巡る人間関係に嵐を巻き起こし、崩壊へ向かって暴走していく模様を描く。

すでに原作は完結しているが、筆者は原作未読である。そこで、まずは原作未読の視聴者が楽しめるポイントを紹介したい。ラブコメ要素はもちろんだが、本作特有の物語の中に散りばめられているミステリー要素を考察しながら観るのが非常に面白い。本作を見始める導入部分で、まず多くの視聴者が引っかかるのは、そもそもタイトルの“××”とは何なのか?と、過去に起こった“畑荒らし”事件の真相は?の2点ではないだろうか。“畑荒らし”事件に関しては、回を追うごとに紗月の不自然な一人暮らしや、直人の過去の記憶の断片から少しずつ全貌が見え始めている印象。

 

 

 

タイトルの“××”は“理性”…?

一方で、タイトルはほとんど謎のままである。一見“渡くんの理性が崩壊寸前”と安直に浮かぶものだが、あまりしっくりはこない。本作はもう少し深くて重い心理を扱っているような印象を受けるからだ。そもそも、直人の妹、鈴白に対する責任感が異常なように感じる。そして、小学4年生の妹・鈴白もまた兄、直人への依存度が幼い子が見せる母へのベッタリ度のように強い。おそらく、早くに両親を亡くしていることが2人の心と関係性に大きな影響を与えているのだろう。だが、それでも違和感が拭えないほどの“共依存”度が垣間見える。

そしてまた、直人を取り囲む美女3人にもそれぞれの心の危うさが見え隠れしている。直人の幼なじみ・紗月に関しては直人以外の人間に全く興味を示さない。ゆえに、名前すら覚えないのである。唯一直人の妹・鈴白に関しては“直人の妹”かつ小さい頃に渡家で一緒に遊んでた関係で「鈴ちん」と呼んでいるが、それ以外に関しては「メガネくん」や「Fカップちゃん」呼びだ。

 

 

 

学園のマドンナ・紫は本当に“理想の女性”なのか?

そして、第10話の現在、直人にお試しでもいいから付き合ってほしいと懇願し、彼女(仮)となった学園のマドンナ・石原紫(伊駒ゆりえ)も直人に対して「渡くんは他の男の子とは違うから」と特別な感情を抱いている。それゆえに直人が“唯一無二”、紫にとってはこの世界でたった一人の彼になってしまい、徐々に直人への執着を見せ始めるのだが…。

紫は幼い頃からビジュアルがずば抜けてよく、成長に連れて顔だけでなくスタイルも良くなり、男子たちの間では「美少女」「高嶺の花」「特別な女の子」「理想の女性」などと呼ばれている。そして、男子たちの中では紫に対して幻想という名の“ラベリング”がすっかり定着しているのだ。

そんな中で紫の目には、“紫のことを意識せずに妹のことだけを見てる”ように見える渡が珍しくて、居心地がよかった。普段嫌というほど男性からの視線を浴びているからこそ、妹第一の渡が気になったのだろう。ゆえに紫はこう言うのだ、「渡くん“だけ”は違う。渡くんは純粋で誠実で優しくて清らかで…渡くん“だけ”は他の男の子と違うから」と。

さらに、後から出てくる直人の中学時代の後輩・梅澤真輝奈(梅澤めぐ)もまた地元では「陸上の女王」「美少女ランナー」「陸上のエース」ともてはやされ、高校はスポーツ推薦で陸上の強豪校である女子校に入学している。だが、高校ではタイムが伸び悩み、それが原因で“特待生”という重圧も相まって部活をサボりがちになっていた。

つまり、それぞれが“ラベリングされた自分”に苦しんでいる。直人は“両親の代わりに絶対的に妹を守る兄”そして周囲からの“シスコン”、それと皮肉なことに紫からの“清く正しい聖人君子”というラベリングがされている。

 

 

それぞれの“ラベリング”…だが唯一違うキャラクターも

ほか、鈴白は“唯一の家族である兄の一番であり絶対である妹”、紗月は隠されている部分も多いためまだ明確ではないが、直人への異常な執着と一方的に愛を与え続けるだけの行為、そして幼い頃に直人の一家への憧れが垣間見えるシーンから“愛されない、必要とされない私”だから“初めて愛をくれた直人だけしか興味がない私”、紫は“高嶺の花であり、理想の女の子”、真輝奈は“絶対的な陸上の女王である特待生”…これらの周囲からの期待や成長過程での自己評価が“ラベリング”となり、呪いのように染み付いているように感じる。

だが、直人を中心に登場人物それぞれが関わっていく中で、少しずつこの“ラベリング”が変化している印象だ。直人は鈴白だけでなく紗月や紫、真輝奈のことも気にするようになり、回を重ねるごとに彼女たちに割く時間が増えている。また1日たりとも兄と離れたくない様子だった鈴白にも友達ができ、彼女の家に宿泊することも普通に楽しんでいる様子だった。

 

紗月もまた直人だけでなく、紫のために飛び蹴りをしたり鈴白のプランターを家に入れてあげたりと直人以外にも少しずつ世界が広がっているように感じる。紫も初めてハッキリと主張をしたり、紗月に闘争心を燃やして焦ったり、直人に自分の女性としての魅力を感じて欲しくて暴走したり…と、これまでの周囲から、そして自分自身で貼り付けていた“ラベリング”が剥がれてきているように思う。

つまり、タイトルの“××”は、“渡くんの自我が崩壊寸前”ではないだろうか、と現段階では個人的に推測している。

ちなみに、本作の登場人物で唯一、自分自身にも他人にも“ラベリング”をしない人物がいる。それは、直人の親友?でありクラスメートの徳井重信(中島ヨシキ)。彼だけは誰に対しても常にフラットで、一対一でただ相手とクリアに接しているイメージがある。そして、冒頭のセリフ「おまえだけだよ、オレをシスコン呼ばわりしないのは」も、直人が徳井に告げた言葉だ。ある意味、一番重要なキャラクターであり、紫が言う「彼“だけ”は他の男の子とは違う」は、本当は徳井の方が当てはまるのでは?と思ってしまう。

あなたは直人をただの“シスコン”だと思うだろうか?…さて、このタイミングで、直人視点で“美女からモテる俺”を堪能するもよし、“畑荒らし”や紗月の過去などミステリー要素を推理するのもよし、登場人物それぞれの“今”から背景を想像するのでもよし、そしてタイトル「渡くんの××が崩壊寸前」の“××”を考察するのもよし!“王道青年ラブコメ”を楽しみつつ、それ以外の要素も満載の本作をあなたらしい“ラベリング”で見てみてはいかがだろうか?