パワーハラスメント・Ⅵ | 声が聞きたいなあ…

声が聞きたいなあ…

私がめちゃくちゃにした愛。たくさんの壁を乗り越えてようやくはじまった恋。信じて待つことが何よりもだいじだと「頭」では理解して、知っていた。けれど体が、心が、「頭」においつかず崩れはじめたとき、私はこの関係をみずから壊し始めた。…







声が聞きたいなあ…









社長に話そう。










そう考えていたのは確かだった。



けれど、


それを行動にうつした切っ掛けは、

ほんとうに

突然だった。






このエピソードはかなり昔のことで、

「パワーハラスメント」

という言葉が、未だ日本には入っていなかった頃の話だ。

正直、細かいところはよく憶えていない。






ただ

うつむく

オオヤくんに、

背の高い店長が、粘着な気質もあらわに

しつこく絡みつき

私はその光景に

ひとつの絶望を感じて

店を飛び出した、












その「絵」だけを覚えている。










私はまっすぐ、地下の事務所へ降りていき、

社長に面談を申し入れた。








私は

私についての話は一切しなかった。

ただ、オオヤ君について

店長について

自分の思うところを余さずぶつけ、

最後に

「あの店長をクビにしてください。」



言った。








社長は、黙って聞いてくれた。

それから、上辺だけではない同情を込めて、

私に話してくれた。







「オオヤ君の事だけど。

彼は女の人が苦手で、人付き合いも愛想も悪いし、

今までは女性のスタッフともあまりうまくいかなかった。

ササキさんがそうして、彼の好い部分を発見して、認めて、

伸ばしてあげるべきだと言ってくれたことに対して

素直に驚いている。

   



そんなふうに彼を見てくれる人がいるという事を、

心からうれしく思う。





けれど、店長をクビにはできない。

彼はもう70ちかい。

再就職は不可能な年齢だ。

彼が人格にも仕事上もたくさんの問題を抱えていることは解っている。

でも、だからこそ、彼を放り出すことはできない。」






私はこのとき、

人間関係のウェットな話ばかりをしたわけじゃない。

店の経営のためにも、ああいう店長がいることの弊害を、

きっちり説いたつもりだった。




けれど、私にはわからない「オトナの事情」がある、ということを

社長は言葉のウラに潜ませている。




私はそれを察するにはこのときもまだ若すぎた。

でも何か揺るぎない決定が言下に下されている以上、

話を聞いてもらった事と引き換えに

いさぎよく身を引ける程度には、大人になっていた。





「では、私はこれで。今までお世話になりました。」



立ち上がって、すっきり一礼した。

仲のいいお客さんが何人かできはじめたときで、

彼らの顔が一瞬脳裏をよぎった。でも、それだけだった。



社長も立ち上がり

「何の役にも立てずすまない。せめてオオヤ君の事は私に任せてほしい。」







そう言って、私を引きとめることはしないでくれた。














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私は店の誰にも挨拶をせず、

それでそのまま辞去してしまった。






せめてオオヤ君には挨拶をしようと思った。

翌日、店に電話を掛けた。

店長が電話に出た。

「オオヤ君に取り次いでいただけますか?」

私が口を開くや、

「どういうつもりで?誰が取り次ぐと思うんだ?」

と電話を叩き切られた。

仕様がなく社長の番号に電話し、

内線で取り次いでもらった。




オオヤ君のそばで店長が聞き耳を立てているのは判っていたし

店長が社長からすでに注意を受けているに違いない以上、

私からの電話を切ったあと

オオヤ君がどういう仕打ちを受けることになるのか、

不安に思わないでもなかった。




でも

それは

私の問題じゃない。









私は

私の問題を解決しようとした。












その先は私の問題じゃない。









私は、電話に出てくれたオオヤくんに感謝した。



そして

「ササキさん」



言ったきり、言葉が出てこない彼に向かって、

「オオヤ君、あなたは好いモノをいっぱい持ってるよ」

と言って、

電話を切った。














私は若かった。









だから、オオヤくんの事を思うと、

しばらくは胸が痛んでしょうがなかった。


































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