＜シリーズ “わかりにくい線維筋痛症にどう取り組むか”＞

【原因、要因について考えられること】

線維筋痛症の原因、要因としては、まず、外傷、事故、手術、歯科治療、特に交通事故が問題と考えられています。またストレス、ライフイベント（昇進や結婚等も含め、良いことも悪いことも）、環境の変化（引っ越し、家族の増減、介護生活面での過労、不眠、不規則な食生活）も要因として多く見られます。

精神面では虐待やDV、身体的な面では低血糖、低血圧、低体温、血行動態不良、体力低下などがあります。

人の体はバランス（ホメオスタシスと言いますが）、恒常性を維持する大変複雑なシステムで成り立っています。生きている状態においては気温、気圧、食後の血糖値、空腹時の血糖値、起立時の血圧等の変化があり、ホメオスタシスを保つには、自律神経が働いて調節を行います。

長期間バランスが崩れたままでいると、外的ストレス、心的ストレスに対応しきれず、線維筋痛症などの慢性疼痛や心身の不調につながっていきます。改善するには逆の方向に進めば良いのですが、わかっていてもなかなかできないものなので、サポートが必要となります。

BMI18.5以下を「痩せ」といいますが、2018年に橋本が相談者25名を聞き取り調査した結果、線維筋痛症患者さんでは標準よりも痩せている例が、特に女性では目立ちました。良くてもギリギリ標準です。十分な食事や、そもそも買い物などの日常生活が送れていない可能性があります。

また、低体重、低血糖、低血圧との関連としては、未病（みびょう、病気になりかかっている状態のこと）段階の甲状腺機能低下、膵臓機能低下、心臓機能の低下などがあります。
痛みがあることで生じるフレイル（加齢により体力や気力が弱まっている状態のことで、以前は「虚弱」や「衰弱」などと呼ばれていましたが、身体的、認知機能だけでなく経済的困窮などの社会的問題などさまざまな面からなる概念です）、骨粗しょう症、ロコモティブシンドローム、夜間低血糖による不眠、冷えなどもあります。

【痛みの機序】

痛みが起きたり固定化していくことについて、どのような仕組みが考えられているのでしょうか。

まず問題なのは閾値(※)の低下、感覚の過敏があります。その痛みを記憶し繰り返します。脳の関連領域への刺激が拡大します。ワインドアップ現象といわれるものです。さらに脳疲労から身体疲労へつながります。

※閾値：通常ではいろいろな知覚を単に知覚しているだけですが、その強さを徐々に大きくしていくとある時点から痛みとして認識するようになります。その時の刺激の値を閾値（いきち、しきいち）と呼びます。線維筋痛症は閾値が低くなっていることが多く、刺激に対して敏感になっていると考えられます。

線維筋痛症のこれらの現象は、一口でいうと、上行性抑制経路と下降性抑制経路、アクセルとブレーキの不調などと考えられています。

痛みの記憶と繰り返し想起することによる痛み記憶の固定化も難しい課題です。

また2021年11月には、線維筋痛症の分類上のネーミングが変わりました。神経障害性疼痛から痛覚変調性疼痛下へと変わったのです。これは、痛みの発生に関わる脳の神経回路の変化によって起こる痛みなどを再定義したことで、見直しが行われたことによるものです。

線維筋痛症、ME/CFS、ヒトパピローマウイルスワクチン副反応、新型コロナ後遺症、新型コロナワクチン長期副反応、などが対象として含まれます。化学物質過敏症などにもオーバラップする部分があり、関連して研究することが必要だと考えられます。

分類変更の内容を簡単に説明しますと、まず痛みは急性痛と慢性痛に分けた上で、慢性痛には次の3つがあると考えられていました。

[1]体の組織に損傷があることで生じる障害受容性疼痛

[2]神経の病変や損傷があることで生じる神経障害性疼痛

[3]体の組織や神経に障害がないのに生じる慢性疼痛。線維筋痛症、過敏性腸症候群、慢性腰痛、緊張型頭痛など
このうち[3]の部分を「痛みの発生に関わる脳の神経回路の変化によって起こる痛み」と再定義し痛覚変調性疼痛と呼ぶことに決めた、と日本疼痛学会など関連の8学会が発表したのです。

【測定できない？主観だから？】

線維筋痛症の多くの症状は、数値で示せないもの=エビデンスがない=気持ちの持ちよう、と今まで言われ続けてきましたし、現在でもそう言われて苦しんでいる患者さんも多くいます。いまだに誤解されたままでいるわけです。

他にも疾病利得だとか、精神科か身体科かと押し付け合いも見られますし、身体表現性と違うのか同じなのかという疑問も持たれています。これらのことで患者さんは無用な悩みを抱えることになります。

【ガイドラインの問題】

身体障害者手帳や障害者年金について、ガイドラインではどのようになっているか、課題を見てみたいと思います。

2009年には記述がありません。

2013年には「線維筋痛症のような機能性疾患（中略）は身体障害者手帳の認定については非該当とされる事例が多いと言われている」と記述されています。
2017年には「身体障害者等級、障害年金（中略）いずれの認定も本人の自覚的な痛みのみでは適用されない。永続的な障害の存在の証明には専門医による当該関節周囲のレントゲン上明らかな骨萎縮またはMRI検査や超音波検査による明らかな筋萎縮などの多角的な証明が必要である」とされています。

この事は線維筋痛症の定義に矛盾しているわけですが、手帳を申請するにあたってはこのような判定基準が必要とされることになっています。このことで患者さんが大変苦労している現実があります。

重症度分類についても、医学的重症度分類と生活上の重症度分類は若干違う部分があることや、医学的重症度と生活上の困難さが必ずしも一致していないこと、患者の訴えと医学的評価も一致しない場合があることなどが問題として残ります。画像だけでは判断できない部分はいかに丹念に診察とデータを記録していくかが必要となります。

実際例として、非常に詳しいカルテを残してくれた医師との協力でこの制度を使えるようになった件がありました。しかし一般的にはカルテにそれほど詳しく記録されるわけではありません。

（続く）

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わかりにくい線維筋痛症にどう取り組むか (3)