願い事 145 ふたりは見ていた。あの日、同じものを

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奈々と過去の出会いの意味について考えるに際してUFOの目撃談を話すのは甚だ的外れな気もするが、まぁ俺も必死なのだ。
奈々との過去の出会いが必然であることを感じている俺は少しでもこの感覚を共有したいと願っていた。

「二回目にUFOを見たのはそれから数年後のある曇った日だった…」
俺は傍らの奈々に語り出す。

その日俺は実家の庭で車を洗っていた。
曇り空が嫌いな俺は嫌いな車の掃除を不機嫌にこなしていた。

母校の校庭から子供たちの歓声が聞こえてくる。
小学校はだいぶ離れているのだがこの日は少年野球の子供たちの声がやけに良く聞こえてきた。
実家の北側には小高い山がありその先の空を遮っていた。

山と言っても高さ的には丘である。
その手前の野原で小さな女の子が自分で作った凧を一生懸命上げている。
この辺りでは見かけない女の子であったが、俺はなかなかうまく空に舞い上がらせることが出来ない女の子が可哀想になり凧を両手で持って一緒に走った。

曇り空の中、車を洗うことに飽きてしまったのである。
しばらくすると小さな凧は小さく宙に舞った。
凧は山の方に向かって小さく宙に舞った。

ふたりは凧の上がった方を見上げて宙に舞ったことを共に喜んだ。
ショートカットの良く似合う可愛らしい女の子だった。

しかし小さな凧は女の子と俺が走るのを止めるとすぐに地面に落ちてしまう。
野球少年たちの掛け声を耳にしながら何度も走り、そして走り疲れると凧は地面にふわりと着地する。何度目かに走り凧を宙に浮かせた時、不意に女の子の動きが止まった。

突然立ち止まって山の方を凝視する。
流石に疲れたのだと思い、地面に落ちた凧を拾い声をかけようとすると小さな手で山の方を指さす。
その指示した方を俺が見上げた時、俺は女の子が言葉を発することなく空を凝視していた意味を理解した。

山の上からガンメタリックの茶筒の様な物体がゆっくりと顔を出したのである。
その飛行物体はゆっくりとゆっくりと南の空に向かって飛んできた。
初めは飛行船なのではないかと疑うほどゆっくと空を飛ぶ巨大な物体。

しかしその飛行物体が飛行船でないことが次の瞬間わかる。
南に向かって飛んでいた飛行物体がゆっくりとゆっくりと東の方に方向を変えたその時。
筒の後方から炎を二回ふわっふわっという吐き出したのである。
ふわっふわっという擬音がぴったりするくらい穏やかに青と赤の炎を二回噴出させ一旦東に方向を変えたかと思うと再びゆっくりと南に方向を変え小学校上空をゆっくりゆっくりと飛んでいく。

女の子と俺はただ呆然とその様子を見つめていた。
前回見たUFOと同じ南の空に消えていくまで時間が経つのを忘れて見つめていた。
女の子は不意に恐怖を感じたのか飛行物体から隠れるように俺の足元に隠れた。

「今の見た?」
「見た…」
「なんだろう?」
「怖い…」
女の子は飛行物体について話をすることを拒んだ。

もう凧のこともすっかり忘れてしばらく飛行物体の消えた空を眺めつづけていた。
女の子はその後すぐに迎えに来た母親に手を引かれ車に乗って消えて行った。
不意に母親のそばから離れてしまった女の子を探していたという母にお礼を言われながら、女の子を見送った。女の子の表情はどこか怯えているようであったが母親に抱かれればすぐに忘れるだろう。

俺は次の日、少年野球のコーチをしている知人や子供たちの母親にガンメタリックの茶筒の様な飛行物体が小学校上空を飛んでいたことを話すが皆口をそろえて『疲れてんじゃない? 大丈夫』と取り合うものはいなかった。
あれだけハッキリと見えた飛行物体を他に見る者はいなかったのである。

しかしあの日俺とあの女の子は確かに見たのだ。
ガンメタリックの強大な茶筒の飛行物体を…。

「ってこれが二回目に見たUFOの話し。大きさから言ってたぶん母船級じゃないのかななんて思ったよ。巨大な飛行物体がにゆっくりとゆっくりと航行する様子は本当に優雅で迫力があって…異次元な光景だった。まるでSF映画を見ているみたいだったよ」
俺がひとしきり話し終えると奈々が何だか妙な顔をしている。

「奈々? どうした? そんな顔して」
「雅樹さん…奈々なんか? ほんとかなこれって…」
奈々が途切れ途切れに言う。

「あっそうかやっぱ信じられないよな、こんな話」
俺は笑いながら奈々に言う。

「そうじゃないんです…奈々は超記憶能力は持っていますがだからと言って全ての記憶を常に顕在化させているわけではありません。そんなことをしていたら脳細胞がいくつあっても足りませんから。ですから思い出したい情報を意図的に映像として想起させるわけなんですが、やはり怖かったり嫌な感情を伴った思い出は当然潜在化させてあまり表層部分に出てこないようにセーブします。そうでもしないと記憶した全ての感情が思い起こされるわけですから精神的に負担がかかりすぎるのです」
そこまで言うと奈々が一息つく。

「そうだよな、あまり思い出したくない感情を伴った記憶をいつまでも明確に呼び起せるとなると心の負担大きいよな。普通は何となく記憶がぼやけてきてリアルに思い出せなくなって段々と不明瞭にソフトに加工されていくもんな」

「そうですそれで…これからまた超記憶で呼び起そうと思うのですが…その女の子…ほぼ間違いなく奈々です…今の話を聴いて何となくそんな記憶があったと引っ掛かるのです…」
奈々自身も驚いたように言う。

「は? まさか! 確かにあのあたりでは見かけない女の子だったけど…奈々なわけないだろう?」
俺がそう言った時には既に奈々は瞳を閉じ記憶を呼び起こしている。

「曇り空…凧揚げ…一緒に遊んでくれたお兄さん…凧が飛んだ、山の方から大きな見たことのない物が飛んでくる。飛んでいるのに羽がない…怖くなってお兄さんの脚にしがみついて隠れる。とても怖い…ママが迎えに来てくれた…大きな羽のない飛行機…怖い」
奈々が瞑想しながら映像化された記憶を呼び起こす。

「雅樹さん…とても信じがたいですが奈々が押しやった記憶に…雅樹さんと同じ飛行物体を見た記憶がありました…」

「まさか…女の子のママは知人を訪ねて他の地域から来たけどちょっと目を離したすきに娘の姿が見えなくなって心配していたって言っていたけど…いくらなんでもあの女の子が奈々だなんて思いもよらないし信じられないだろ?」

「雅樹さん…ここまで来ると何か恣意的な物さえ感じられますが、その女の子は紛れもなく子供の頃の奈々です。信じられない…こんな早い段階で雅樹さんと出会っていたなんて…」
瞳孔が開いてしまったのではないかと思うくらい目を大きくして驚く奈々、そして俺。

「奈々、実はさUFOの話しした後に言いたかったことがあってさ…今更こんなこと話しても陳腐な話になっちゃうんだけどさ。こんな時期から奈々と俺が出会っていたって言う事実に比べたら…」
俺は用意していた話の落ちを話すことにためらいを覚えた。

まさに事実は小説より奇なり…だ。

「雅樹さん最後まで聞かせて…」
驚きが収まらない奈々も言葉みじかに言う。

「あ、あのさ…UFOってさ、あれ? 誰が言ってただっけ? よく覚えてないんだけど、たぶんスピリチュアル系のUFO研究家かなんかの言うことだから、今更俺達にとっては取るに足りない感じなんだけど…。UFOって来たるべき時が来た時に選ばれし人間を迎えに来た時、その人間が驚かないように事前に姿を見せるんだって…。その日のために少しずつ姿を見せて慣らしておく? みたいな。馬鹿らしい、今更ねって思うけど…もしそうなら…なんか、なんていうか…」
俺は気恥ずかしいことを奈々に言うようにためらいながら話す。

「馬鹿らしくなんてないです! 奈々と雅樹さんがずっと昔に既に何回も出会っていて…それも奈々がこんな小っちゃい頃から…。それでふたりで一緒に同じものを見ていた…。その一つがUFO…」

「俺はUFOの話しの落ちでさ、『だから俺と奈々が千葉城や横須賀で会っていたのは大いなる意志? がいずれ俺達が出会うために準備していたんだ』なんて言おうと思っていたんだけど…」

「なんだかそんな範疇で収まる感じではなくなってきました…」
奈々が俺に追随して言う。

「ふたりは見ていた。あの日、同じものを。そして今ここで再会して、ふたりでいる事の意味って…。雅樹さん…。ふたりはもう疑うことなく出会うべくして出会いこうして二人でいる。もう何も疑う余地はありません。」
「奈々…」

どちらともなく寄り添い互いの体に手を伸ばす。
「雅樹さん…愛しています…。もうずっと前から奈々は愛していたんだって…。この腕に包まれて守ってもらうために生まれて来たんだって…たとえ次の世に時が流れたとしても奈々は必ず雅樹さんを見つける…」

「俺は奈々を離しはしない…。次の世もその次の世も必ず奈々を見つけ出してこの腕に抱く。これは奇跡なんかじゃない決められていた必然なんだ」

過去現在未来。
ふたりの時が今、ぴったりと重なり合う。

少しのズレ
ほんの少しの時間と空間のズレが出会うべきふたりをすれ違わせ、二度と重なり合わせることはない。
すれ違いすれ違い出会えぬまま今を終える。
非常な時の隔たり…

すれ違い、時空のズレに阻まれ重なり合えずにいたふたり。
そんなふたりを異空間がしっかりと結びつけた。
ひとつになった二人の影が今、はっきりと映し出されている。

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