小説 願い事 1~3
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何のきっかけがあるでなし、朝起きてまた一日が始まる。
今日も若干のブレは在るにせよ、いつもと変わらない日常が繰り返されるのかと思うとベッドから這い出すのには勢いが必要だった。

カーテンを開け朝日を浴びる。
が、まだ目は覚めない。
階段をのっそりと降りリビングを抜けダイニングを通り越しキッチンから表へ出る。
勿論その間に煙草とライターはポケットに忍び込ませている。
寝ぼけながらもその辺にはぬかりない事に我ながら呆れる。

煙草に火をつけ煙を吸い込む。
ようやく朝が来ることの意義を見出したかのようにゆっくりと煙を吐き出すが、それはまるで溜息のようでもあった。

平凡な一日の始まり。
平凡であることの難しさ。
平凡たる事の力強さを実感せしめる年になってなおこの胸に渦巻く想いをなだめすかすには、『あまり目は覚めない方が良いのかもな』などとぼんやり考えれば一本の煙草の役目はあっけなく終える。

静かな朝。
静かな朝がなぜか苛立たせる。

なぜなんだろう。
ちっぽけな自分を偽りで装うかの如く生きる意味に固執し、殊更意識を高める。
それが何になったのだ?

静かな朝。
あまりにも静かな朝が不意に自分を顧みさせる。

耳を澄ますといつもの心地良い波音がかわらず響く。
少しホッとする。

それと同時にやはり静寂すぎる朝への不安がよぎる。
波音がいつもより澄んで聞こえるのだ。

違和感を覚えつつ短くなった煙草の火を消し部屋に戻る。
この時まだ感知していなかった事態を潜在下に抱きながら。

漠然とした不安を抱えながらもとりあえず目を覚ました私はテレビをつける。

が、どのチャンネルに合わせても映像が映し出されない。

特にみたい番組があるわけではなかったがとりあえず世の動向を頭の片隅に残すためにニュースでもと半

ば形骸的につける朝のテレビ。

時計替わりでもあるな。

なぜ映らないかはわからないが今から電気屋に電話して修理を頼むわけにもいかない。

仕方なくいつもなら出かける前に一緒に持ち歩く新聞を取りに行く。

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ソファーに腰掛け一面の見出しに目をやると日本人の平均寿命についての記事に目がいく。

女性が86歳、男性が79歳・・・か。

少し男の寿命が延びたかな・・・。

本当かね・・・・。

ふと、夕べ飲み屋で友人とかわした会話が蘇る。

自殺者数年間3万人。

尋常ではない。

ひと頃交通死亡事故が問題となった時代でも年間1万人くらいだった。

日本の人口を1億人として1万人にひとりの人間が交通事故で亡くなっていた計算だ。

いわば万が一・・・・。

それが自殺者数は3万人。

約3千人に一人が自ら命を絶っている。

地方のちょっとした都市、例えば10万人くらいの地区ならば33人。

半分の5万人規模の地区ならば15人ほど。

もちろん地域格差や偏在性もあるだろうから一概に数字で延べられないがこのくらいの割合だと知り合い

ひとり2人を介すれば自殺者もしくは自殺者が出た家族との人間関係の環にひっかかりそうだ。

万が一どころの話しではない。

かなり日常的になってきている死亡原因、自殺。

酒を飲む肴としては、はなはだ趣味が悪いがそれだけ身近な話題となってきているのだ。

年間の死者の2.8%が自殺によるもので、癌や心疾患などに次いで6番目に多い死因となっている。

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そんな状況にもかかわらず平均寿命が延びている?

それも男性の平均寿命が?

にわかに信じがたいな。

自殺率は男女差が激しく、自殺者の70%以上が男性である。

統計によると男性は女性より2.5倍自殺しやすい。

男性の方が自殺しやすい原因として、失業を含む勤務問題が挙げられる。

実際、遺書などから自殺原因を調べた場合、20台〜60台では「勤務問題」、「経済・生活問題」を挙げ

る者の数が男女で実に10倍近くの開きがあるという。

男の平均寿命が延びているとは考えにくいな・・・。

大体男なんて生き物は弱いのさ・・・。

仕事や経済問題での自殺。

確かに男はプレッシャーの中にある。

だがそれ以上に、望むべき自分の姿と現実とのギャップを認識した時、男は女が考える以上の失望感を味

わう。

調べたことはないが百六十万人とも言われる『ヒキコモリ』も恐らくその大半が男であろう。

なぜ男は弱いのか。

自らを振り返るにつけその弱さは男が男たらん事から起因するものだとつくづく思う。

理想と現実の隙間を埋める事が下手だと言い換える事が出来るかもしれない。

およそ全ての男は、物心がつくや否や男の理想像を連日の様に植えつけられる。
正義のヒーロー、エースで四番、白馬に乗った王子様…。

少年雑誌でアニメでテレビドラマで…

毎日毎日…

寝ても覚めても…

誰でも出来る事なら男心は逸らない。

カーレーサ、パイロット、プロ野球選手…

また、か弱い上に幼い生き物である男はもうだいぶ成長したと思われる時期までかなり本気で、正義のヒーローになろうと心のどこかで燻ったりしている。

正義のヒーローに!

男の中の男に!

世界で一番の男に!

…と恋い焦がれるのである。

続く・・・

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