🎧 Faith No More 『Angel Dust』

聞いた事はあるけど聴いた事はない人が多いのか。レッチリ、リンプ、コーン、リンキン・パーク、レイジ、数あるメジャーミクスチャーバンドよりはかなりマイナーなバンド(日本では)。

 

 

このアルバムではないが、彼らの最大のヒット曲「Epic」はなんとなくラジオで聴いたような気がするぐらいの人はいると思う。

 

出会い

90年代半ば、当時日本にいたアメリカ人の友人に紹介してもらった。その後別のアメリカ人からも紹介された。1991年にRed Hot Chilli Peppersが『Blood Sugar Sex Magik』をリリースしてミクスチャーロックが黄金期を迎え、1994年にNirvanaのKurt Cobainが自殺してグランジが終焉を迎えようとしていた90年半ば。私はてっきりその辺のよくあるバンドだと思っていた。

 

 

だいたいメタルっぽい音にシンセサイザーって何?『Blood Sugar Sex Magik』より前のRed Hot Chilli Peppersにキーボードを足して数倍ハードにしたような音かな、が第一印象だった。ところが聴けば聴くほど...好きになるバンドのいつものルーティン。今でも聴き続ける唯一のMy Favoriteミクスチャーバンド。

 

兄さん

実は結成が1979年の古株バンドで何度ものメンバーチェンジを行い、結成当時のメンバーはドラムとベースのみ。メジャーデビュー前のバンドではなんとあのCourtney Love(ご存知Holeのヴォーカル、Kurt Cobainの奥さん、アカデミー賞ノミネート女優、若い頃はストリッパーとして日本にも来たことがあるという姉さん)がヴォーカルだった事もある。Red Hot Chilli Peppersの結成が1983年なので彼らはだいぶ兄さんなのである。ところがメジャーCDデビューはRed Hot Chilli Peppersの方が数年早い遅咲きなバンドだ。

ミクスチャーロック

初のヒット曲「We Care A Lot」がリリースされたのは1987年、当時のヴォーカルはChuck Mosley。ファンキーで且つハードなサウンドでミクスチャーメタルやオルタナティブメタルと言われるジャンルを確立させた曲と言われている。

 

ファンクとロックを融合させたRed Hot Chilli Peppers、ラップとメタルを融合させたAnthraxなど、と同じように新しいジャンルを確立(少なくともFaith No Moreのスタイルが確立)したのはこの頃である。

 

その後、暴力事件や奇行が続いたChuck Mosleyを解雇し、現在のフロントマン Mike Pattonが加入する。

 

Mike Patton

1989年の『The Real Thing』(「Epic」収録)以降のアルバムから現在に至るまでMike Pattonがフロントマン兼ヴォーカル。

 

この人がまただいぶパンチの効いた方で、「Epic」のビデオはヤンチャな若者という感じだが、Faith No Moreと同時進行でいろんなバンド、プロジェクト、音楽レーベルなどなど、やりたい放題といった感じなのである。

 

まあ現在のFaith No MoreはMike Patton+αのように言われるほど才能がある方なのだが、とにかくこの人の事を書いた記事には常に「アバンギャルド」という言葉が載っている。

 

前記したアメリカ人の友人がFaith No Moreのといっしょに貸してくれたのがMr.BungleというMike Pattonの別プロジェクトだった。

 

コピーしたMDしか残ってないがYou Tubeで探すとFull Albumがアップされていた。ありがたい時代だ。これがなんとも表現し難いのでWikiで調べたところこう書かれていた。

フェイス・ノー・モアよりも実験的で、 アバンギャルドな色合いが濃い。ヘヴィメタル、ファンク、 フリー・ジャズ、サーフ・ロック、パンク・ロック 、スカ、ノイズ、デスメタル、ボサノヴァ、カントリー・ミュージックからケチャ 、サーカス音楽、アニメやテレビゲームの音楽まで、あらゆる要素を取り入れた音楽スタイル。

そんなスタイルある?なのだが実際そうなんです。
これに対抗できるのは岡本太郎しかいない。
 

BGMとして聴いていても作業の手が止まって最初から聴き直したい音楽。当時ほどの衝撃は無くなったが、すごくいいアルバムであるのは間違いないので機会があればぜひ聴いてほしい。1曲だけリンクを貼っておきます。しかしこのジャケットよ。初回のライブではこのカッコで現れたらしい。

 

このアルバム

Faith No Moreファンに好きなアルバムを聞いたら、全員が『Angel Dust』を選ぶでしょう。ベースとドラムがリズムの中心で、メタルのようなギター、The Stranglersのパンクでキーボードというアンバランスさに似た他のミクスチャーバンドにはない印象的なシンセ、なによりもMike Pattonの雄叫びのようなヴォーカル、縦ノリできないリズムなのに全体のバランスがよくてノリノリで聴けてしまう。

 

Mike Pattonらしい奇妙な詩も好きだ。30〜40代の人生に悩む時期のことを言う「Midlife Crisis」、幼児の異常な行動を歌う「Kindergarten」、ゲイの性(男娼)を歌う「Be Aggressive」などなど。


私にはわからないが、すすめてくれたアメリカ人いわく言葉の表現がキモ面白いらしい。

 

「Midlife Crisis」
 

You're perfect yes, it's true
But without me, you're only you
君は完璧だよ、そうそれは真実
でも俺がいないと君はただの君

 

追悼

このアルバムには関係ないが2017年にChuck Mosleyが亡くなった。その時バンドが寄せた追悼コメントがFaith No Moreというバンドをよく表している。

私たちの友人でありバンド仲間だったチャック・モズレーの死の報せを聞き、とてつもなく暗い気持ちに襲われています。彼は恐れ知らずで、強い信念と共に賑やかなエネルギーに覆われた人でした。彼がいなければ、私たちはこのような形でユニークでオリジナリティに溢れたバンドを作ることはできませんでした。
私たちは、奇妙で機能不全なひとつの家族でした。チャックと共有した時間を、これから永遠に大切にし続けます。

確かに奇妙な人がいなければ「ユニークでオリジナリティに溢れたバンドを作ることはできませんでした。」だろう。ただ世の中では奇妙な人は認められない。特に日本のような国では。

 

Chuck Mosleyはバンドを解雇されたあと少しの間Bad Brains(黒人のミクスチャーバンド)にいたが、余生は家族のためにアルバイトなどをして過ごしていたらしい。元Pink Floydで亡くなったSyd Barrettもそうだが才能=豊かな人生ではないんだろう。

 

好きだなあ「奇妙で機能不全なひとつの家族でした。」というフレーズ。バンドらしいというか、正直というか、ありきたりな関係ではなかったというぎりぎりの書き方というか、解雇せざる得なかったがそれでも心の友でないと言えない素敵な言葉だと思う。

 

再結成

1997年のアルバム『Album Of The Year』(賞レースに対する嫌味かな)をリリース、1998年に解散、2009年に再結成、2011年に活動停止、2013年に再開、2015年にアルバム『Sol Invictus』をリリース、現在も活動していると思われる。

 

「再結成」は好きではないがこのバンドは別。なぜなら演奏力とユニークさと揺るがない自信が明らかに昔よりもパワーアップしているからだ。

 

ということで2009年のFaith No Moreの再結成ライブです。彼らのライブの1曲目はいつも「なんかを馬鹿にしたような曲です」。多分前戯みたいなもんでしょう。意味不明な杖と服装、Mike Pattonの超絶歌唱力、いいおっさんたちのパワフルな演奏をお楽しみください。まあこの人たちはオーディエンスがどう思ってるかなんてどうでもいいでしょうけど。

 

とにかくはよ新しいアルバム出して。あとコロナ落ち着いたら日本に来て。