私が『ただいまぁ。』と家に帰ると、
老人Bが、『お帰り』と玄関わきの台所で椅子に腰かけて湯が沸くのを待っちながら出迎えてくれました。

私:『Bのオッチャン、お湯やったら私が沸かすから座敷で座っといて。』というと、

親父が、『人の仕事を取ったらあかんで。湯を沸かすのんもオッサンの仕事やねんから。』

老人B:『湯を沸かして茶をいれるんがワシの仕事やねん。』

私:『へー、そうなったんや。Bのオッチャンよろしくお願いします。』

老人B:『ねえちゃん今日から宜しくお願いします。』

私:『Bのオッチャン、何時から何時まで居るのん?』


親父:『Bはん、08:30に出てこれるか?』

老人B:『朝の8時半は早いでぇ。』

親父:『何でや?』

老人B:『何でて、夜更けまで麻雀やってるさかいなぁ。』

親父:『あんた、まだ麻雀で稼ぐつもりなんか?』

老人B:『なんぼ刑事かて夜中まで踏み込んでは来んやろ?』

親父:『そんなこと分かるかいや。あっち等は背広を着ているけどサラリーマンと違うさかいな。晩やさかい家で寝てるとは限らんで。』

老人B:『今まで上手に繕うたらバレへんかったんやさかい。時間をずらせて上手にやったら大丈夫やろ? それに、こんな小口を取り締まるほど日までもないやろ?』

親父:『Bはん、あんたもモウロクしてしもうたんか。あの刑事の目配りを見てへんのんかいな?「今回までは見逃したるけど、3回目は捕まえるで。」と言うてたんは張ったりと違うで。あんたや俺らの動きを知ったうえで踏み込んできとるで。』

老人B:『そやろか?』

親父:『どうしても、あんたが麻雀で食うていきたい。と言うのやったら、「お茶くみ爺」の仕事を返上して家に帰ってくれたらええ。その代りウチを出て戸を閉めた時点で、あんたとの縁も、その時限りやで。』

老人B:『友達の少ない年寄には痛い言葉やなぁ・・・・。』

一寸、間をおいて・・・・

親父が、『モモン、買い物に行く、ついでに、オッサンBの家の付近の様子を見てきたってくれへんか?』

私:『うん。ええで。昼はソウメンでもしょうか?』

親父:『そうやなぁ。』

ということで私は家を出て、家のすぐ脇にあった道を北上し、1つ目の四つ角を過ぎ、2つ目の四つ角を西に居れ、真っ直ぐ歩いて、家から7~8分くらいのところに老人Bが暮らしていた木造2階建ての古いアパートがあった。

老人Bの家の近くから様子をうかがいながら通ると夏物の背広の上着を手に持った中年の男がアパートの2階へ上がるための階段に腰を掛けていた。
見覚えのある中年男性でした。

3日前の昼過ぎ、
文具店の小母さんに赤鬼(チリチリパーマ)のオバハンの家を訪ねていた背広姿の中年男性でした。

私は、≪刑事なんか?≫と様子だけを見て通りすぎ、買い物をして家へ帰ってから、親父に見たままを話しました。

老人B:『潮時やなぁ。』

親父:『ぼちぼち足を洗う時が来たんと違うか?』

老人B:『そうやなぁ。』