海は穏やかだった。


2日前のような最悪な気分とは無縁で、焼けつく陽射しは海をより碧く見せるための演出のようで、見下ろしたヨットは自由気ままだった。







背丈の短い緑を申し訳程度に生やした赤土の島は、鮮やかなオレンジ色の屋根と白い壁の家々を島の斜面に抱いていた。




まるでおとぎの世界に迷い込んだようだった。






サントリー二のような、その美しさを隠そうともせず権高ですました美しさとは別物だった。

ただ自然にそこに在って、それでいて現実離れしていた。





最も島の中に入り込むと、それはより一層鮮明だった。


街は余所者を、イドラ流の静かで入り組んだ路地で受け入れて歓迎していた。


360度見渡しながらいつまでも歩いていたかった。







海からも見える時計台を擁する修道院は、可憐な色で来訪者を奥へと誘った。







海の浮かれた喧騒は遠く去ってしまったかのようだった。