ひとの靴音を聴いて、こんなに悲しくなったのは、はじめてでした。
コツコツ、だなんて生易しいものではなくて、カッカッ、と鋭利で攻撃的な音が目の前を素通りしていった。
その人の、靴音がね、私のまったく知らないもので、それだけが少し悲しかった。
私はまだ足音の鳴らない靴を履いていたから。
ちっとも変われず、情けないくらい、馬鹿馬鹿しいくらい、同じままで。
あの人が、あんな靴を履くとは思わなかった。
いや、きっと、いつか履くのだろうと思ってはいたけれど、もっとずっと遠いことだと思ってた。
そんなの、ぜんぶ私の勝手だった。
本当にすべてが、馬鹿馬鹿しくなった。よい意味で。
あの靴はとても歩き易くて気に入っているからまだ脱がないけど、でも、立ち止まらないよ。
私もいつか、ルイが咲に履かせたような真っ赤なハイヒールを履いてひとりで歩くようになるのかな。
ほら、僕がいないと歩けない
そう笑って意地悪に満足そうに手を引こうとする彼を追い出して、ヒールが折れてしまったとしてもひとりで駆け回るラノは、めちゃくちゃだけどかっこいい。
カツカツ、という靴音を響かせる彼女。
ガッコガッコ、という気持ちの悪い音を奏でて足を引きずりながら帰った渚。
きっと同じ靴を履いていた。
赤いハイヒール。
ああ、そうだ。
ポイフルの方が美味しいし、
マーブルチョコの方が美味しいから、
私はかわいくもかっこよくもなれないんだ。
